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第1回執行委員会

更新 2016.04.18 (作成 2006.05.08)

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第2章 雌伏のとき 21.第1回執行委員会

新執行部は、委員長の吉田優作と書記長の作田耕平が専従であり、他に女性事務局員が1名いた。この女性事務局員は組合が独自に雇っているもので、もう3年目である。組合で雇うといっても、雇用保険や健康保険、退職金計算など雇用管理が煩雑であり、いざ組合財政が逼迫し、雇用維持ができなくなったときの雇用責任をどうするかなど、弱小組合が独自で雇用するのはリスクが大きすぎる。そのため、一旦は会社で雇った者の中から、本人の同意を得て組合への出向という形を取っている。会社とは出向契約を結び、給与計算や社会保険など全ての雇用管理は会社が行い、それら雇用に掛かる全ての費用負担を組合がするのである。組合は、休暇や時間外などの勤怠管理を会社に届けるだけである。もちろん、専従者も同様にやってもらっている。ただし、専従者は労働協約に基づいて休職扱いとなっている。

組合事務所もやっと新メンバーだけになり、名実共に新執行部体制のスタートとなった。
組合の正式名称は、「中国食品労働組合」である。事務所は、中国食品本社敷地内一番西側にある車両整備場の隣にある。本社建屋に隣接しているため昼休みや終業時間後は現役執行委員やOBたちが顔を出し、世間話に花を咲かせていくのが日常化している。このわずかなひとときが仕事の緊張感を解きほぐし、穏やかな気持ちで家路につかせてくれるのである。話好きな人はこのことが習慣になり、なかなか止められないようだ。管理職になり、組合資格がなくなっても顔を出す者もいる。現職の組合役員も嫌がるわけではない。先輩としていろいろなことを教えてくれるし、貴重な会社の情報も置いていってくれるからである。

今更申し上げるまでもないと思うが、簡単にふれておくと、
労働組合とは、『労働条件の維持改善、その他経済的地位の向上を図る事を主たる目的として組織する労働者の自主的、かつ永続的な団体』である。
労働組合法は、労働組合の資格を

  1. 監督的地位にある者や使用者の利益を代表する者が参加していない
  2. 組合運営のための経済的援助を使用者(会社)から受けない
  3. 共済事業や福利事業のみを目的としない
  4. 政治運動や社会運動を目的としない

などと定義し、その主体性と健全な活動を保護、育成しようとしている。
これらの要件に適合する旨の労働委員会の証明を受け、所在地において登記すれば法人資格も得られる。
2.の項の除外事項として、労働時間中の使用者との交渉や協議時間の賃金カットは、会社が認めれば援助とはならないことや、最低限の厚生資金の会社負担、最小限の広さの事務所の供与などは除外される、などがある。
こうした便宜上の供与を除けば、組合は精神的、経済的に独立していることが大事である。何でもかんでも、会社から引っ張れるものは引っ張れという考えは、こじき根性というものであろう。あくまでも自主自立の精神をもって、民主的に運営されることが法の精神である。会社も組合もこの精神を尊ぶことで健全性が維持される。
会社によっては、社員会などで運営しているところもあるが似て非なるものである。それぞれの会社の理念や歴史から生まれたのであろうから、それはそれで悪くはないが、どうせなら組合にしてしまえばいいと筆者は思う。
社員会の多くは、運営費も会社が負担していることが実態のようだ。金も出すが口も出す。社員のほうも、組合費を負担しなくて済むといった甘えがある。こうした社員会では必ずどこかで会社の干渉を受けるし、根底において自主性を損ねる。長い歴史の間に社員気質を受身体質にし、上意下達の風土を育んでしまう。チャレンジ精神や自らリスクテイクする社員は少なくなっていく。 
会社にとっても従順な社員会のほうが扱いやすい、といった都合のよさがなにやら見え隠れする。

中国食品労働組合もこの法に則り、会社の一角を事務所として借用していた。もっとも会社としても、組合の都合だけで勝手な所に事務所を構えられても困る。セキュリティの問題や打ち合わせに要する行き来の時間ロスなどが発生するからである。

大会が済んだ翌週末10月11日の金曜日に吉田は執行委員会を招集した。通常の執行委員会は、大体土曜日の10時からと決まっている。遠方から来る者も、ちょっと朝早く出るか前泊すればいい。前泊も金曜日の業務終了後に出かければ業務への影響も最小限に止めることができるし、賃金カットも発生しない。議論が伯仲しても翌日は日曜日である。時間を気にしなくていい。
だが、今回は最初の執行委員会でもあるし、顔合わせといった色彩が強いので、金曜日の夜に設定された。
期待や責任を背負って、みんな緊張した面持ちで組合事務所に集まった。
冒頭、吉田は、
「先日はお疲れ様でした。おかげさまで大会も無事終わることができました」と、まず全員の労をねぎらった。
「やっぱりドキドキしましたよ。質問なんか出たらどうしょうかと思っていました」平田が言った。他の者も同じ気持ちだったらしく、うなずいた。平田はホッとした。こんなところで上がったりする小心者は自分だけではないかと、どこかでチョット恥ずかしい気がしていたのだ。みんなも同じだったかと少し嬉しかった。
「そんなことないでしょう。もう10年くらいやっとるような顔をして座っとったやないですか」作田がまぜっかえした。皆も平田と同じように幾ばくかの気恥ずかしさと緊張感を持っていたが、作田のこの一言で気が楽になった。
「さて、これからはいよいよ私たちがやらねばなりません。引継ぎもうまくいかなかったことだろうし、慣れないことばかりで大変でしょうが、よろしくお願いします」吉田が頭を下げたので、みんなもピョコっと頭を下げた。
「今後のことについて、書記長のほうからお願いします」
会議の進行は書記長の役割である。吉田は、進行役を作田に振った。

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