御弁当夢奇譚
就職してから、お弁当を作るようになりました。
最初は続かないだろうと思っていましたが、だんだん手抜きの仕方を覚えてきて、今では15分くらいでさっと作って持っていきます。おかずの種類は少ないですが、コンビニ弁当に比べるとコストパフォーマンスは花丸......? 今日はどうやって詰めようかと工夫するのが楽しく、その分かえって早く起きられるようにもなりました。
大学に入るまでは母にお弁当を作ってもらっていた私ですが、中学生の頃のある晩、母にある注文をつけたことがあったそうです......
......草木も眠る丑三つ時、パジャマ姿の私がふらりと現れ、
暗がりの中、母の枕元にぽつんと正座する。
(私:朗々と声を張って)「あのね、お弁当のことなんだけど」
(母:眠い目をこすりつつ)「......ん?どうしたの」
「ちょっと、私はお弁当にデザートが付いていないと許せないのよ」
「え??」
「駅前のBストアでみかんを買ってきて」
「うん......」
「オレンジではなくて、みかんを半分に切って入れてちょうだい。Bストア以外で買ったのはダメ、あそこの愛媛産のでないと」
「......」
「要はね、お弁当というものは、色と味のバランスなのよ」......
私は自覚していませんでした。この時期の私は、自分でも知らないうちに起き出してきて寝床の母を前に1人喋っていたらしいのです。しかも相手が寝ていても、相づちがなくても、反論されても、お構いなしに話を展開する。最初のうちは母も心配していたようですが、思春期なりに積もる話もあるのだろうと、次第に聞き流して寝られるようになったといいます。
数日後、学校から帰宅した私はお弁当箱を洗いながら、
「今日はみかん入ってたね」と何気なく母に話を振りました。
「ああ、入れてって言ってたでしょ」
「え? 何のこと?」
「何言ってんの、自分でデザートがなくちゃダメって」
「いや、お弁当にデザートとか考えたことないけど......」
この話がきっかけとなり、私の奇癖が明るみになったのでした。
(母:のんきに)「せっかくBストアまで行ったのになァ?」
(私:青ざめて)「いや、知らない、全く覚えてない」
「そう、てっきり普通に話してるんだと思ってたよ」
「そんな......ほかにどんなことを喋ってたの?」
「そうだねえ」
このほかには「タレントの○○は人相がよくない」「肩こりがひどくて疲れる」など、主に不平不満を母に語り聞かせていたそうです。どれも私自身は気にしていなかったものばかり。なぜBストアのみかんにこだわったのかも不明です。私はBストアにはめったに行きませんし、もちろんよそのみかんと比べたこともありません。
今から思えば、誰かが私の口を借りた「狐つき」だったのでしょうか。
そしてこの事実を自覚して以来、私が枕元に立つことはパッタリとなくなりました......
それでも、朝方起こしにきた母に「今日は3時間目からだからまだ寝てていいの!」と意識のないまま会話することはありました。これには母もだまされません。「ブツクサ言わずに、起きなさいッ!!」と布団をはがれたことも一度ならずあります。
もともと朝は苦手なのですが、大学時代にはさらにひどくなり、目覚ましを3つ並べても起きられず、お昼休みまで寝過ごしてしまうこともありました。
そんな私が自ら早起きしてお弁当を作る日が来るなんて、母は夢にも思わなかったことでしょう。自分で作って初めて、作ってもらえるありがたみがわかります。そして何より、言われるがままにみかんを入れてくれた母の寛大さも......。
今はまだ、お弁当の「色と味のバランス」や「必須のデザート」を考えるレベルには達していませんが、母の助言を仰ぎつつ、これからもマイお弁当、そして健康的な食生活&早起き生活を続けていきたいと思っています。さて、今日の献立は?
同じおかずがいろんなところに顔を出しています?? |