それはニューヨークでした
1カ月間ニューヨークに行ってきたんです。それはいわゆる語学留学というやつだったようです。語学留学......そのありきたりな響きが私はあまり好きではないけれど、自分探しという響きはますます嫌いで、でもそのどちらもあながちはずれではない。
もっと正確に言えば、ニューヨークのアートスクールで勉強したいという考えが、どれだけ本当に自分にふさわしいのか調べにいった1カ月でした。
そしてそれは
はじめての長期海外滞在、
はじめての語学学校、
はじめての寮......
などの初めて条件が万全にそろった生活でした。こう書くと味気ないけれど、それはもうとにかく、ものすごく完全に今ここ日本の横浜のパソコンの前にいる私とは完全に完全に完全に切り離された、完全に新しい生活だったということ。そしてそれが、ただ新しく始まっただけじゃなくて期間限定で、もうすでに終わってしまったということ。
それはそれはもうニューヨークだった。信じられないくらい世界中の端々から出てきた人間がいっぱい集まっていた街でした。
「寮」!その閉鎖された的な響きの古臭いアパートの中に、どれだけものすごい種類の女たちがそれぞれの国からそれぞれの事情を抱えてそれぞれの事情を切り捨てて期間限定の生活を送っていたことか!たとえばバネッサ、マル、エステル、エロディ、マキコ、シルビアがいた。毎日いた。同じ屋根の下にいた。朝晩同じ釜のメシ食った。だけどそれぞれがそこに集まるまでの背景の完全無縁な違いたるや!そしてそれぞれがまたそれぞれ、もと来た場所へと帰っていくというその状態!
私はあまりのことにがくぜんとする。あまりの、生活の違いに。そのとき私は気づいてはいなかったが、あのときの私はここにいる私とは別の私だったのだ。愛する日本、愛する東京と横浜、愛する家族、大学、友達、恋人、アルバイト、絵、部屋......ああ大好きなこの生活。ここにあるすべてが、あの場所には一つも無かった。一つもひとっつも無かった。
だけどそこにあったものは、世界のまぜこぜと、気分が飛んでしまうほど素晴らしい素晴らしい美術館の数々と、行きたくてうずうずするようなアートスクールと、日本とはあまりにも規模の違うアートの世界と、一人でいることの自由と、ものすごくいろいろな人たちがすぐ近くにうじゃうじゃいることの興奮とか、そういうものだった。そういう、どうしてもまた移り住みたい、移り住みに行かなければいけない場所でした。
私は生きていてずっと、私の居場所がどこなのか、はっきり答えられないような気がしていたのだった。だけど実は、そのどことも言えない場所をどれもこれもひっくるめて、日本で今までしてきた生活のすべてがすべて、ひっくるめて全部、それが私の居場所だった。
そして、だから、ふたつめの居場所を、あの場所に。新しい生活、だけれど私の場所からきちんとつながった、ふたつめのすみかをあの場所に。
さあ
そして、とてもとてもスムーズに、今私はここにいます。
ただいまただいま?
またここで暮らそう