山東省維坊市と高密市
山東省維坊(ウェイファン)市と高密(ガオミ)市へ行ってきました。
今回の目的は、維坊市(*1)とその隣の高密市の民間工芸作家を訪ねることでした。
まず行ったのは、維坊市郊外「楊家埠」(ヤンジィアーブ)です。 ここには木版年画(中国で正月に門などに飾る絵)の工房があります。 天津の「楊柳青」(ヤンリィウーチン)と蘇州の「桃花塢」(タオフアーウー)と並んで、 木版年画で有名な3カ所のうちの1つです。
「楊家埠」の年画は、生活の様子や物語の登場人物などが多く、親しみやすい内容です。 1枚の絵に対し、色に合わせて版木を10枚以上彫ります。特徴は紫色で、「楊家埠」でしか出せない紫だそうです。 彫りから印刷まで1人の人が担当しています。
次に、維坊市からバスに乗って高密市へ行きました。
初めに訪ねたのは「撲灰年画」(プーホイニエンフア)の作家です。 「撲灰年画」というのは、版画の「年画」とは違い、炭の粉で下絵をし、筆によって描かれます。 炭の粉によって何枚も下絵のコピーができることが版画と共通する複数制の部分でしょうか。
「撲灰年画」の色彩はとても鮮やかです。 作家のおじさんが頬がピンク色に染まっている可愛い女の子の絵を指して 「これは自分の娘がモデルなんだ」と言いました。
このおじさんはとても親切でした。着いたときすぐにお茶を出してくれ、お昼は食べたか?と聞き、食べてないというと、奥さんに何か 作るように言いました。しばらくすると卵をふわふわに炒めたものと、自家製チャーシューと葱の炒 め物、そして魚の形押しがしてある蒸しパンが出てきました。その素朴な家庭の味は 、どこのレストランよりもおいしかったです。
春節(旧正月)にはたくさんの作品があるだろうと思い、電車が混む時期にわざわざ行きましたが、 実際はあまりありませんでした。売りだす時期はすでに過ぎていたのです。それはこの後に行く泥人形も同じで、 まったくご馳走になりに行ったような感じでした。
「泥人形」は「撲灰年画」と「剪紙(*2)」(ジエンジー)と並び、「高密三絶(*3)」 と呼ばれています。
作り方は、まず練った泥を型にはめて焼きます。そのあときれいに彩色します。
女の子が鶏を抱え、男の子が魚を抱えている対になった可愛い人形(鶏は「ジ」魚は「ユ」と 発音し、それぞれ「吉」「余(福)」と同音なのでめでたい意味を持つ)や三国志の登場人物の人形、 干支などいろいろな人形や動物があります。
その中でも面白いのは音が出るものです。獅子の胴が頭の部分とお尻の部分で分かれていて、 皮でつないであります。そして、アコーディオンのように動かすと「バウバウ」と鳴きます。 その音は思ったより大きく、そしてその様子はなんとも可愛いのです。
その他、棒の先端についている猿をくるくると回すと「かたかた」と太鼓を鳴らすものもありました。
本来はもっとたくさんあるのでしょうけれど、こちらも残念なことに今は売り切れでした。
民間工芸の多くは、そこで暮らす人々の習慣やそのお祭りと深い関係があります。
それは土地によってさまざまですが、日本ではあまり見られなくなったような、人々の 生活に息づいた芸術性を感じ取れます。
受け継がれてきた模様やその驚くほど手の込んだ作業も、それを美術品としてではなく、ごく普通に行っているところに、 私は人間本来の持つ審美眼を感じます。
この広い中国にはまだたくさんの民間芸術が埋まっているのでしょう。また他を見るのがとても楽しみです。
- *1:本来は「さんずい」に「維」
- **2:切り絵
- **3:高密三大芸術と訳しましょうか
泥人形 |