手作りマスクをいただいて......。
久しぶりに出社した[ゆ]から、マスクを頂戴しました。お母上のお手製とのこと。花柄の可愛らしい生地で、裏地までもおしゃれ。鼻の部分にはワイヤーがはいっていて、ぴったりフィット。
とても快適でテンション上がります。娘を想う親心を分けてもらって恐縮ですが、とても気に入りました。
さて、精巧につくられたマスクをしげしげ眺めているうち、昔の切ない記憶がよみがえってきました。
子どもの頃、「母親お手製の○○」というものに憧れがありました。
友人達のママは、可愛いらしいものをたくさん作ってくれます。巾着袋だったり、アップリケだったり......。お弁当だって彩りよくて可愛いのです。
しかし、私の母は「そんなチマっとしたことはどーでもいー」と言う人でした。
なので、「母親お手製の○○」というものはほとんど記憶にありません(自転車にペンキを塗ってくれたことはあります)。
そんな母が一度だけ、私のために「よなべ」してくれたことがありました。
中学3年のときだったでしょうか。家庭科の宿題でパジャマを作らねばなりませんでした。
当時私は某大会が近く、毎日部活でクタクタでした。明日までに提出なのに全然できていない、とたぶん母に愚痴ったのだと思います。
母は、「よし!手伝ってあげよう」と言って、作りかけのパジャマを私から取り上げ、せっせと縫い始めたのです。
あ、襟元のバイアステープは表から見えないようにしてね、という私の忠告をよそに、「こっちのほうが絶対カッコいいから!」と表面に縫い付ける母に若干不安を感じたものの、その勢いにあらがえませんでした。
母はパジャマを縫いながら、女学生のときの思い出をこんこんと話してくれました。初めて聞く話です。
それはとても楽しそうで、娘の宿題を手伝うというより、さては自分がしたくなったのだなと思いました。
それでもそんな母の姿は珍しくもあり、嬉しくもありました。
親が宿題を肩代わりするのは本来ご法度です。やってはいけません。でも当時の私にとっては、ずっと憧れていた「母親お手製」に浸った唯一の貴重な時間なのでした。
母の思い出話を聞きながらいつのまにか眠りに落ちていたようです。
翌朝目覚めたとき、それはでき上がっていました。
「傑作だー!」と満足げな母に、「なんかちがうけどなぁ」と思いつつ、これで提出は果たせます。
いざ、ようようと学校へ。
そして家庭科の時間、私はクラス全員の前に1人立たされ、大目玉を食うことになりました。
当時の家庭科の先生は、機嫌のいいときも怖いのに、機嫌が悪いと鬼のようでした。
「あなたね!」 (名前も呼んでもらえません。怒りマックスなことはすぐわかりました)
「何なのこれは! 今まで何聞いてたの? 全ッ然ダメじゃないの! こんなのを作るようじゃ、今期は「2」ですからね! 今日中に作り直しなさーい!」
そう言って、母のパジャマを無造作に右手でぐしゃっと握り、机にバンと叩きつけたのです。教室の中に「クスクスクス」という押さえた笑い声が響きました。
受験を控えた中学3年の成績で「2」が混じるのはさすがにきつい。それはまずい。
しかしそんなことよりも何よりも、母のことを卑しめられた気がして、それが悲しくて悔しくてなりませんでした。
もともとは、宿題を肩代わりしてもらったのが悪いわけで、自業自得なわけですが......。
私は当日部活を休み、1人家庭科教室でパジャマを縫い直しました。母のパジャマは「2」......、それが頭の中でリフレインして、帰路につく足取りは鉛のようでした。
家に帰ると案の定、「どうだった!」と母は満面笑顔の期待感で聞いてきました。
「う、うん。まぁまぁだったよ。...ありがとぅ」
娘のリアクションが薄いのが不満のようではありましたが、私としては、その返答が精いっぱいでした。
あの楽しそうだった母の姿を思うと、とてもとても「2」だなんて言えません。母にも友人にも先生にも言えません。
子ども心に、このウソは墓場まで持って行こう、そう思いました。今になってみれば笑い話ですけどね。
それ以来、親に宿題を見てもらう気には一切なれませんでした。母親を友人の"ママ"と比べることもやめました。
この一件は、結果としていい「教育」にはなったかもしれません。
さて、弊社でも、まだまだスタッフの在宅が続いています。ときどきは、Webミーティングを子どもたちにジャックされることもあります(笑。
親は大変だと思いますが、子どもにとって、親が家にいるのは珍しくもあり嬉しくもあるのでしょうね。
マスクをくれた[ゆ]も、お子さん(写真)が0歳のときから預けて働いてきて、その子ももう小学生。こんなときだから、子どもとたっぷり一緒に過ごすのも、きっといいことだろうと思うのです。
その時は辛くても、生きてさえいればいつか思い出になるのでしょう。せめて今しかできない「お手製の○○」が、たくさんできたらいいなと願います。
もうしばらくは油断せずStayHomeで、頑張りましょう。
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