設立記念日に金魚社員が......
去年の8月、1匹の金魚が我が社のメンバーに加わりました。
[ひ]がご主人の転勤で海外に行くことになったのですが、飼っていた金魚の引き取り手がなくて困っていたので、会社で引き取ることにしたのです。
体長13センチ、年齢は5歳以上、見た目はほぼフナ。堂々たる中年の和金です。名前はなかったそうなので「きんちゃん」と名づけました。
最初はただ「でかくて地味な金魚」としか思わなかったのですが、日々眺めている内に、だんだんと心が奪われていきました。しげしげ見ていると、つくづく可愛い。
目尻を下げたり口角を上げたりすることはありませんが、いろんな表情があることに気づかされます。
「そこの引き出しにあるエサを取って」とねだったり(動画参照)、「水草?食べてませんから」とうそぶいたり、エサが見つけられないときは「ねぇ、どこにある?」と聞きに来たり、別れ際には「もう行っちゃうの?」と見送ってもくれます。
今では、掃除のときに手の中に入ってくるほどの親密ぶりです。まるで手乗り金魚!
エサやりは、きんちゃんのルームメイトの[な]や[よ]が分担してくれて、水槽の掃除は私が隔週末に行っています。これがまったく苦にならないのです。自らを「生き物がかり」と称し、横を通るたびに「きんちゃん、おはよう!」「きんちゃん、調子はどう?」「きんちゃん、おやすみ」とお声かけも忘れませんし、日々のフン取りも欠かしません。
そんなきんちゃんファーストな私に、スタッフはやや呆れ気味。可愛さに負けて夜食をあげすぎ、よく厳重注意を受けたりもします。
そのきんちゃんに異変が生じたのは2月中旬頃でした。最近お腹が腫れていて落ち着きもなかったので、なんとなく変だなとは思っていたのです。
ある夜のこと、ふと見ればきんちゃんが苦しそうに暴れ回り、底砂利に身体をこすりつけてウロコがめくれ上がってしまっているではありませんか!身体の周りに白い糸くずのようなものも浮いています。
当ビルの1階は動物病院なのですが、さすがに金魚は受け付けていません。ネットで金魚の病気を調べたところ、「イカリムシ」という寄生虫による症状に似ています。
すっかり狼狽した私は、日頃きんちゃんと仲のよいスタッフに「きんちゃんが大変!」と緊急連絡。休日の夜にそんな連絡もらっても困るだろうなとは思いつつ、言わずにはおれませんでした。「明日の朝、死んでるかも......」という心配を1人で抱えておくことができなかったのです。
翌朝、替えの水槽と塩を小脇にかかえて1時間早く出勤。ひとまずきんちゃんを別水槽に移して塩浴させることに。
小1時間ほどした頃、なんと、きんちゃんの周りにたくさんの黄色い粒々がちらばっているではありませんか!? おのれ、憎き寄生虫の卵か!
きんちゃんは、ますます辛そうに水槽の底でじっとしています。
ネットで情報をあさってくれたスタッフによれば、イカリムシの完全駆除はなかなか難しいとか......。
水草を洗わずに水槽に入れたのがいけなかったのか、底砂利の掃除が足りなかったのか、あのせいかこのせいかと自分を責める生き物がかり。そして皆が心配そうに見守る中で、元気なくうずくまるきんちゃん......。心が痛みます。
たかが金魚、されど金魚。半年間一緒に過ごした仲間です。絶対に死なせたくはありません。
ついに[な]が機転を利かせ、金魚専門店に電話をして状況を伝えたところ、なんと「そりゃ金魚の卵でしょ」と一発回答!
ええーー!きんちゃんの卵!? ......ってことは、きんちゃんってメスだったの?
驚きと安堵とで腰がくだけます。
くしくもその日2月20日は、会社の設立記念日であり、元飼い主[ひ]の誕生日でもあります。
こんな日に産卵するとは、ただの金魚ではありません。やはり"持ってる金魚"です。採用して正解だったのでしょう。きっと。
シンガポールの元飼い主にLINEすると「えー!メスだったんですかー!」と案の定な驚きよう。
リスクをおかして高齢出産(しかも初産)してくれたのに、残念ながら卵は捨てるしかありません。さらに残念なことに、狼狽しすぎて写真を撮り損ねてしまいました。しかしながら健康状態が良好であると確認できたことはよかったです。めでたしめでたし。
そんなこんなで、きんちゃんは皆に大事にされながら、今日も元気に泳いでいます。
しかし、ちょいちょい卵を産まれると大変なので、きんちゃんとは適度な距離を置くべきかと、生き物がかりは自制中です。
どうぞいつまでも長生きしてくれますように。そして、年中納期に追われる私達をいやしてくれますように。