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真夏の朝のミステリー


[の] 日常生活

通勤で利用する路線バスの停留所は、お寺の横にあります。


バスの運転手さんにはいろいろな人がいます。
毎朝乗るときに「おはようございます」と挨拶するのですが、挨拶を返してくれる人はごくわずかです。
「あうあ」のような音を返してくれる場合はまだよいほうで、多くの場合は完全無視されます。
そんな中、必ず「おはようございます」と笑顔で返してくれる人がいます。
その運転手さんは運転もとても丁寧。まだ片足が残っているのに開閉ブザーを鳴らすようなことは決してしません。
その日の朝は、久々にその運転手さんに当たりました。幸先のよいスタートです。


バス停に並ぶ乗客は私が最後尾でした。
「おはようございます」と気持ちよく挨拶を交わし、静かにドアが閉まりいざ出発、
……と、その時運転手さんが「ちょっとごめんなさいね」と言ってまたドアを開けました。


「乗りますか?」とバスの外に話しかけます。
誰かが乗ってくるんだなと、何気なく外を見ると……え?誰もいない??
なのに運転手さん、「乗りませんか?」とまた一声。……いやいやいやいや。


私はつり革につかまって、バス停周辺をくまなく見回したのですが、人はもちろん猫すら見当たりません。
私が暑さにやられたのでしょうか。いいえ、椅子に座っていた乗客3~4人も窓の外へ目を凝らし、不思議そうにきょろきょろしています。
どうやら、見えないのは私だけではなさそうです。
他の乗客達はいったいどう思ったのでしょう、気のせいかなと思ったでしょうか。
しかし、広角を見渡せる位置にいた私には断言できます。『誰もいませんでした』


いや、見えませんでした、というのが正しいのでしょうか。
運転手さんには何かが見えていたということなのでしょうか。
運転手さんは、「じゃあ閉めますよ」と丁寧に断ってドアを閉め、今度こそ出発しました。


時期はお盆の終わり、隣はお寺。シチュエーションは揃いすぎています。でも朝でよかった……。


確かに、そろそろご先祖様が此岸から彼岸へと戻られる頃ではあります。
とはいえ、バスを使う必要はなかったのかもしれませんね。
親切な運転手さんに声をかけられ、その方は『けっこうです』とゆらりと手を振ったのでしょうか。
などと想像してみるのでした。


そんなことを考えているうちにバスは次の停留所へ。ドアが開いて今度は「見えるご老人」が乗ってきました。
運転手さんはご老人が席に着席したことを確認し、ゆるやかにバスを発車させました。


真夏の朝の、ちょっと不思議な出来事なのでした。

通勤で使用するバス亭
もしかして、誰かいますか?
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