定期便 特別便 年金記録
4月の最初のころのことです。テレビのニュースで「ねんきん定期便」のことが盛んに報じられていました。ニュースを要約すると、誕生月に手元に届く、封筒は水色とオレンジがある、オレンジが届いたら要注意、しっかり中身を確認しましょう、というものでした。そして映像では、A4サイズの角2封筒の山をリフトに乗せて発送している現場が繰り返し映し出されていました。
そのニュースの数日後、さっそく私の手元にも届きました。しかもオレンジの封筒が......。えっ、私の誕生月は来月なのに? それに、この封筒、小さい!
届いたのは角2ではなく、普通の封書サイズの長3程度の封筒でした。よく見ると「ねんきん定期便」ではなく「共済組合等加入記録のお知らせ」となっています。
思い起こせば1年ほど前、「ねんきん特別便」が送られてきました。私は新入社員の時期から立て続けに転勤し、また転職もしたので私の記録はあぶないなとは思っていたのですが、案の定、ある一時期の記録がごっそり抜け落ちていました。
抜けていたのは、私が転職して数年間、共済組合に加入していた時期のものです。そこで抜けている期間の履歴を記入し、返送しておいたのですが、それっきりなしのつぶて。どうなってるんだろうと気にかかってはいたのですが、その回答が「共済組合等加入記録のお知らせ」として届いたんだな、と理解できました。
封筒を開け、中を見ると「あなた様のものである可能性の高い記録」となっているのですが、確かに私の記録です。昨年「ねんきん特別便」で細かく書いて返送したのに、全然つながっていないのかと不満もありますが、「共済組合等記録回答票」なるものにもう一度記入して返送すれば万事OKのようにも思えます。しかし、それで済まされないことが1つありました。
実は、私の配偶者も同じ共済組合に加入していた時期があり、「ねんきん特別便」では同じく履歴を記入して返送していたのですが、配偶者分の「お知らせ」が届いていません。「ねんきん特別便」のときには、写しもとらずにさっさと返信してあとから不安になったので、今度はちゃんと2人分を確認してから返送しようと思い立ちました。
ところが1カ月ほど待っても配偶者分の「お知らせ」は送られてきません。そこで業を煮やして同封の案内文書にあった「専用ダイヤル」とやらに、電話してみることにしました。
でも、どうせ簡単にはつながらないだろうなと覚悟して電話をかけはじめ、予想通り何度かけても話し中ばかりでまったくつながる気配がありません。電話番号を間違わないように案内文書に大きく書かれた番号を何度も確認してかけるものの、やはり話し中です。今どき自動応答のシステムくらい入れろよ、とぶつぶつ言いながら数日間、時間を見つけてはこの作業を繰り返しました。
そしてこの日も時間が空いたので電話をかけようと封筒をとり出してみると、封筒にも「専用ダイヤル」の番号が小さく載っていて、「あ、ここにも書いてあった」とそちらを見てかけようとしたところ、さらに小さな文字で「IP電話・PHSからは......」と別の電話番号が記されていました。
「なに?」と思って慌てて封筒の中の案内文書を取り出して見ると、そこにもしっかり「IP電話・PHSからは......」と書いてあります。私は自宅も会社もIP電話です。かけてもかけても話し中になっていたのはそのためだったようで、案内されているIP電話用の番号にかけてみると今度はちゃんとつながり、「そのまま待ちになるか、おかけ直しください」という自動応答のテープが流れはじめました。
社会保険庁に対してはマスコミも非難轟々ですが、私自身も会社を設立してから何度も不満に感じたことがありました。昨年の「ねんきん特別便」のときもそうでした。記録漏れの部分を記入例を見ながら書き込もうとしたら、どうも書きづらく、記入欄と記入例と行ったり来たりしないといけません。何か変だなと思ったら、中とじの印刷物なら4の倍数のページ数になっているはずのものが、表紙を入れて6ページしかない冊子になっています。よく見ると真ん中の1枚は半分の用紙がのり付けされていました。
「これってコストや手間はどうなのよ」
「8ページあれば記入例を見ながら記入できるレイアウトになるのにー、まったくー」
と不満タラタラで記入を終え、返信用の封筒に入れようとしたら今度は封筒に入りません。なんと、返信用の封筒が中身より小さく、折り込まないと入らない形状になっていました。
そんなこんなで、社会保険庁はやることなすことみんなお粗末だな、という先入観があったんだと思います。IP電話用の番号が案内されているのを自分が見落としていたのを棚に上げ、毎回話し中になるのを社会保険庁の対応の悪さのためだと勝手に決めつけていました。
「いけない、いけない」「決めつけで非難するのはよくないな」「マスコミも社会保険庁を悪者にするのはそろそろ止めるべきだよな」「さすがにあれだけ叩かれれば改善するよな」......
先ほどから延々流れ続けている自動応答のテープを聞きながら、頭の中であれこれ反省していました。やっとつながった電話ですので、担当者が出るまで待つことにしたのですが、担当者も大変だろうから電話がつながったら丁重に話をしようと、気持ちを落ち着かせることに専念してました。
それでも手持ちぶさただったので、受話器と反対の手で先ほど封筒から出した案内文書を片づけようと折り畳み、担当者が出ればこの電話番号ももういらないな、と思いながらぼんやりと電話番号を眺めていました。
「な、にー!?」
私が今、見ているその案内文書には、「専用ダイヤル」が大きく書かれているだけで、IP電話用の電話番号がありません。なぜだ、さっきはあったのに、と思って折り畳んだ案内文書を広げてみると、とんでもないことを発見してしまいました。
案内文書はもともと3つ折りになっていて、その中段と下段に大きく「専用ダイヤル」が書かれています。下段のほうには確かにIP電話用の番号も書かれているのですが、それを3つ折りにすると内側に折り畳まれ、隠れてしまいます。そして表に残る中段の「専用ダイヤル」のところには、IP電話とかの記述が一切ありません。この案内文書を封筒からとり出すと、この中段の「専用ダイヤル」が目に入るようになっていて、私はこの中段の面だけを見て何度も電話をかけていたのでした。
実はこの封筒、中段、下段の3つの「専用ダイヤル」は同じ番号ではありますが、封筒と下段は「年金記録のお知らせ専用ダイヤル」となっていて、中段だけが「共済組合等加入記録のお知らせ専用ダイヤル」と書かれているのです。最初に電話をしようとしたとき、いくつかある電話番号のうち「この番号だな」と思って一番手前にして綴じた記憶があり、私が不注意だったわけではないのです。そのときは同じ番号とは気づいてなかったのですが、何度かかけてるうちに封筒の番号も同じだと気づいたことがこの騒動のはじまりでした。
「大変お待たせしました」
私が「かーっ」となりかけたまさにそのタイミングで電話が担当者につながってしまいました。少し年配の男性の声で、あまり流ちょうとは言えない話しぶりです。
「臨時か何かかかな。こいつ、運が悪い。おっと、いけない、いけない。丁重に話さなきゃ」と少し上がりぎみだったテンションを落ち着けながら要件を切り出しました。
「横浜の[K]と申します。実はこの度、共済組合のお知らせが届いたのですが......」
私はクレーマーではありません。極めて丁重に話をしました。ホントです。
ですが、社会保険庁の対応はまったく予測を裏切りませんでした。名前の名乗れば検索して本人確認をするのかと思えばそれもなく、今どういう状況になっているのか、この先いつごろどのように進んでいくのかなど、何も情報を得ることができません。
それでも私は丁重に話を続けました。ホントです。電話に出た担当者も限られた情報しか与えられず、何も答えられないことにもどかしかったのでしょう(きっと)。最後には、どうしても知りたければ共済組合に電話するようにと教えてくれました......(出たな、必殺たらい回し!)。それでも私は怒ったりはしていません。でしたらその連絡先を教えてくださいと訊ね、共済組合の電話番号だけはゲットしました。
結局何もわからないままなので、共済組合に電話をしてみることにしました。教えてもらった番号にかけてみると「お客さまがおかけになった......」と絵に描いたような展開です。私の人間性もここが限界、となりそうだったのですが、これは私がイラついてプッシュダイヤルを押したためにゼロ発信にならなかったことが原因のようでした。年金の記録を知りたいだけなのに、どうして自分の小ささを思い知らされるような羽目になるのでしょう。
落ち着いてダイヤルすると、今度はすんなりつながりました。最初に電話に出た女性は少し乱暴な印象で「お前もか」と思ったのですが、取り次いだ加入記録の担当者はこなれた調子で効率良く受け答えしてくれました。
事情を説明するとまず手元の案内にある「ある番号」を聞かれ、検索して私の記録から確認してくれました。続いて配偶者の記録は、名前と生年月日から検索し、記録が正しく残っていることが確認できました。姓が変ったことが社会保険庁側で突合できてない原因だろうということで、氏名変更の手続きをすることにしました。
ちょっと疑問に思ったのは、共済組合の側で氏名変更をしたとして、そのあと社会保険庁の側はどうなるんだとうという点でした。ここで聞いても仕方ないかと思いつつ聞いて見ると、社会保険庁側で想定される処理もしっかり教えてくれました。
これこそ、コミュニケーターのあるべき姿です。もし、今日電話した2件が通信販売会社だったら、売上はどれだけ違ってしまうんでしょうね。
さて、今月は私の誕生月です。半分が過ぎたところで「ねんきん定期便」はまだ届いていません。今度はどんなサプライズを届けてくれるのか、待ち遠しくてしかたありません。
ねんきん案内文書 |