ありがたいがちょっと困る
打ち合わせに行って、"ありがたいがちょっと困る"ということがあります。
さて、それは次のどれでしょう。
1.カバンをあけたら打ち合わせ資料が入っていなかったとき
2.ソファーがフカフカすぎるとき
3.今日はいちだんと素敵ですね、と言われたとき
4.食べ物が出されたとき
1.はありがたいわけないですね。真っ青です。2.はスカートのときに非常に困ります。3.は言われたことがないのでパス。というわけで、私の場合は4番が正解でした。
私はモノを食べているときには考えられません。逆にいうと、考えながら食べられないということになりましょうか。ただし、ガムと飴は例外です。かみ砕いて飲み込まねばならないものはだめですね。
もっとも、考えが煮詰まったときや難題にぶつかったときに、無性に何かをガツガツ食べたくなりますが、それはいわゆる現実逃避ということでしょう。たぶん。
打ち合わせの内容にもよりますが、簡単なことならメールや電話で済むわけで、わざわざ出かけるからにはそれなりにヘビーな用件の場合が多いわけです。
行きの電車の中では「あれがああなった場合は、こうして......」「もしこうだったらあれがそうなって......」といろいろとシミュレーションをしていきます。ただでさえ大きくない脳みそが、水を吸ったスポンジのようにタポタポ状態になるわけです。
さて、そんなふうにタポタポ状態で出かけたある日のことでした。
応接に通されるなり、お客さまがニコニコと
「今日は[の]さんが来られると思って、あんみつを仕入れておいたんですよ」と言われました。シミュレーションの範疇を超えた意外な展開です。
「ご存知ですか?あの行列のできる○○店のあんみつ。今日たまたま手に入ったので、取っておいたんですよ」
......なんとありがたいことでしょうか。私のために取っておいてくださったとは。さぞやおいしいあんみつなのでしょう。
そうしてトンとテーブルに置かれたのは、300ccは入るかと思われる容器にたっぷり入ったあんみつ。
表面に見えているだけでも白玉団子が5つはあります。手に持つとずっしりとくる存在感です。......いくらなんでも大き過ぎませんか。
お客さまは、「ささ、どうぞ遠慮なさらずに」とすでに自分の分のフタをはがしにかかっています。
時刻は15:30、きっと私が来るのを今や遅しと待ちかまえていたのでしょう。とても嬉しそうです。
「持って帰ってもいいですか?」とか「打ち合わせ終わってから食べませんか?」とか言える雰囲気ではありませんでした。
『ああ、この300ccを食べきらないと打ち合わせに入れないということか......』私はしばしぼう然としました。
せめてとっとと食べ終わって本題に入りたいと思いましたが、なにせ行列のできる店のあんみつですからね、ぞんざいにするわけにはいきません。ちゃんと味わって気の利いたコメントなどもすべきでしょう。
電車の中でタポタポにしてきた脳みそが、一口あんみつを食べるたびに絞られていく感じがします。はて、私はさっきまで何を考えていたんでしたっけ?
食べても食べても盛り上がってくるアンコ。底の方まで敷き詰められたダンゴ。なるほどここまで良心的なら人気もあるわけです。しかしそのときの私にとっては、正直ちょっとした拷問でした。
もしも私を困らせたかったら、あるいは私の思考を停止させ、事を有利に運びたかったら、いきなり食べ物を出すのは極めて有効です。噛みごたえがあり、量があり、しかも有名店とくれば、もう私はしどろもどろです。何でしたら一度お試しください。
これってなんだか古典落語の「まんじゅう恐い」みたいな展開になってますが、別に作戦ではありません。いや本当ですって。