レトロなそば屋とコンビニ世代と
暑い。こんな日はつるつるしたものが食べたい。ということで、近所のそば屋に入ったときのことです。金額はやや高め、量は少なめ、味はそこそこ......な、そのそば屋には、学生が入ってくることは滅多になく、落ち着いて食事をすることができます。
天せいろが食べたい、でも1500円は高いしなぁ、ざるそばだけでは午後がもたないし......とメニューを追いながら迷っていると「かき玉そば」という文字が目に入りました。このときの私の頭の中では、それはなぜか「かき揚げ天せいろ」と変換されていました。意識が完全に天ぷらモードになっていたのだと思います。
「お待ちどうさま」と運ばれてきたそれを見て、私はがく然としました。お店の人が間違ったのだろうと二度見したほどです。
それは、熱々でとろとろの「かき玉そば」でした。それを頼んだのでそれが出てきただけですが、私は打ちのめされました。
......またやられた。
私はもともとかき玉系は好きではなく、自発的に注文することはありえません。しかし数年に1度、このようなトラップ(?)にはまり、うっかり注文してしまうことがあります。それが冬ならまだしも真夏とは。。。
片栗粉でとろみのついた熱々のスープが、ふわふわたまごでコーティングされてさらに保温性がUP、身体が芯からあったまりそうです......。ああ卒倒しそう。
なんでこの暑くて食欲のないときに、お金を払ってこれを食べなければならないのか、夏はメニューから外しましょうよ。これじゃまるで罰ゲームじゃないの!?
とは言え「かき玉を頼んだけど、かき玉を食べたかったわけではない!」というクレームは、まったく説得力にかけます。ここは黙って食べ切るしかないのでしょう。
そんなとき、大きなスポーツバッグを抱えた男子学生が2人、店に入ってきました。
体育会系の男子学生の胃袋と財布には、この店は不釣り合いだろうなどと感じている私を尻目に、彼らはメニューを見るなり「天せいろ2つ!」と。......な!私が躊躇したものを、学生がなんのためらいもなく注文するとは!むしゃくしゃしていた私は、罪のない学生に心の中でいいがかりをつけていました。
すると学生の1人がすっと立ち上がり、「トイレ貸してください!」と、他の客が振り返るほどの朗々としたさわやかな声で言い放ちました。店員もちょっと驚いた感じで、「ど、どうぞ」と、学生のすぐ目の前のトビラを指し示しました。
15人も入れば満席となる狭い店内で、トイレの場所もすぐにわかりそうなものですが(しかも目の前)、気付かなかったのかしらん、などとチラと不思議に思ったものの、それどころではありません。昼休み終了までに、この熱々を平らげねば......。
そうこうしていると、もう1人の男子学生も立ち上がり、「トイレ貸してください!」と、これまた堂々とした声を店内に響かせたのです。
なんだなんだ?もう場所はわかってるよね。なにか、そういった趣向の部活ですか?アコムのCMじゃないけど、いったい何部......?
そして、はたと思い当たりました。そうか、コンビニ文化ではないか、と。
かつて、コンビニではトイレを借りることができなかったという記憶があります。90年代中頃にローソンがトイレ開放宣言を行って以降、トイレを貸してくれるコンビニが急に増えてきて、その頃から「トイレをご利用の際は、一声おかけください」という張り紙もよく見受けられるようになりました(最近は、あまり見かけませんが)。
この男子学生達が20歳前後とすると、物心ついたときは、コンビニのトイレはそのような状態にあったわけで、トイレを借りるときは一声かける、というマナーが普通のこととして身に付いていてもおかしくありません。
コンビニはもはやインフラの1つ。私でさえ、1日に1回は必ずといっていいほど立ち寄ります。学生ならさらに身近な存在なのでしょう。知らず知らず影響を受け、身体に浸透している文化のようなものが、ひょっとしたら他にもあるのかもしれません。
昔ながらのレトロなそば屋で、暑さと熱さに耐えながら、新しい文化について考えてみた真夏の昼時なのでした。
ところで、このときは歳時記ネタにしようと思っていなかったので、写真を撮っていませんでした。
そこで本日、改めてそば屋でリベンジしてまいりました。さすがに自分でかき玉そばを注文する勇気はなかったのですが、一緒に行ったスタッフが犠牲を払って(?)かき玉そばを注文(いや、強要したわけではないですよ)。私は天せいろを奮発してパチリ。本当はこっちが食べたかったんですよね(味はそこそこですが)。
熱々とろとろ、かき玉そば | 天せいろ(こういうのを想像してました) |