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「ぼろ」は着てても...


[た] イベント

GWに『BORO?美しいぼろ布展?』(田中忠三郎コレクション展)に行ってきました。

「BORO」とは、ご想像のとおり、あの「ぼろ」のことです。
昔のお百姓さんなどがよく着ていたようなぼろぼろの衣類。
田中忠三郎さんは、そうした「ぼろ」を収集・保存されている民俗学者です。そのコレクションは、江戸?昭和にかけての衣類のほか、同時期の民具(タンスなどの生活用具)も含め数万点に及ぶそうです。今回はそれらの一部を見ることができました。

会場は、浅草アミューズミュージアムです。
『BORO』の展示室は全部で4つあり、そのうち3つは衣類が中心、1つは民具が中心でした。
展示されていた衣類には、「ぼろ」と呼ぶにはあまりにきれいな状態の上着もありました。今でも普通に和装のファッションとして通用しそうな感じです。
その一方で、ところどころ布をツギハギしても破れを隠せない、文字通り「ぼろっぼろ」の着物もありました。「よくここまで使い倒したものだ」と、思わず頭が下がりました。
展示物には基本的に手を触れることができたので、ぼろぼろの感触を素手で確かめました。

展示室の壁にある案内ボードには、田中さんの著書からの引用がいくつか載っていました。印象的だったのは、田中さんがご結婚された際のエピソードを述べたものです。
ご結婚にあたって家を出るとき、お母様が「お祝いの着物を贈ってやれなくてすまない」と涙を流されたというのです。田中さんが生まれ育った青森では、昔は衣類が命にかかわるくらい大切なものでした。寒冷な気候のため、綿や絹が貴重だったので、農家では自家栽培した麻をベースに衣類を作り、それに少しだけ綿などを詰めて寒さをしのいでいたそうです。
田中さんのお母様は、当時の苦労を体験している世代でした。そのため、着物という大切なものを贈ることで息子さんの門出を祝ってあげたかったのですが、諸事情によりそれが叶わず、悲しまれたということです。そのときは田中さんご自身も、母親の涙に思わずもらい泣きしてしまったそうです。
展示された衣類の奥に、青森という土地の気候や歴史と強く結びついた親子の愛情をかいま見た気がしました。

衣類の展示室のうち、1つは他とちょっとテーマが違いました。
その名も『黒澤明と田中忠三郎の「夢」の跡』です。
田中さんの収集している「ぼろ」の噂を聞きつけた黒澤明監督が、ぜひ自分の作品で使いたいということで実現したコラボレーションです。『夢』という作品の撮影で実際に使用された衣装や小道具が展示されていました。また、黒澤監督と田中さんとの間でやりとりされた書簡も読むことができ、お二人が相手に対して持っていた深い尊敬の念が窺えました。

「ぼろ」によって深まった絆、あるいは「ぼろ」によって結ばれた縁。
おそらく展示品の一つひとつには、田中さんとそのお母様、あるいは田中さんと黒澤監督との間に生まれたような数々の思い出がつまっていることでしょう。
今回の展示では、私自身かつて祖母の家で見かけたような「ぼろ」や古民具に出会いました。そのせいか、実際には初めて見るものだったわけですが、どこか懐かしい感じのする不思議な機会でした。

ぼろ1 ぼろ2
ぼろぼろ ちょいぼろ
「ぼろ」と「ぼろっぼろ?」
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