小宇宙(コスモ)のある振袖
袴の卒業式に便乗して、先日振袖を借りました。開かずの引き出しから持ち帰られたあと、ナビゲート女性メンバーへ着物・袴のお披露目会があり、その際[の]に「着られる人がいたら貸します」と声をかけてもらっていました。ちょうど友人の結婚式で受付を頼まれていた私。思い切って貸出をお願いしてみたところ、快諾してもらいました。
この着物がすごい。朱と白の地に、季節を超越した花々が咲き乱れています。
白いむら雲を背景にした、水色の波、桃色の丘、朱色の川。
その中心に、赤・橙・白・黄・青・紫の大輪の菊が咲き誇ります。周囲には手染めの微妙な濃淡で描かれた、桜、紅梅・白梅、桔梗、藤、楓、萩、松、笹の葉。
細工も豪奢のきわみです。金糸で縫い取られた菊、黒地に金箔の小花模様、螺鈿の木の葉、鹿の子ちりめん。帯は銀色で、矢を連想させるデザインに、牡丹や波頭、亀甲があしらわれています。
振袖を広げながらあらためて図柄を確認し、思わず「この着物にはコスモがありますねぇ」と呟いてしまいました。隣にいた[の]は「こすも??」といった感じ。私もその場ではうまく説明できませんでした。
「小宇宙」と書いてコスモと読ませるのは略式で(本来はミクロコスモスと訳す)、おまけに私的な用法をしていて恐れ入りますが、言ってみれば「必要なものを盛り込んで、欠けるところのない、足し引きのできない世界」というところです。
たとえば、ヒエロニムス・ボッシュの「快楽の園」には、強烈なコスモを感じます。もちろん地上・天国・地獄の世界図である以上、当然といえば当然なのですが、ふさわしい題材をあまさず配置して、世界の縮図として完成されているように私には思えます。
伊藤若冲の「鳥獣花木図屏風」も恐いようなコスモがあります。単純化された動物たちと存在感のある白い象が、俗世の時間の流れを止めかねません。
両者に共通しているのは、ある系列の事物を網羅的に採用していること、そして現代では奇想と呼ばれるような、時には笑いをさそうようなモチーフが見られることです(後者はコスモの要素というより私の好みかもしれません)。
今回の振袖も、季節の異なる花々を一堂に集め、同じ次元に配置しています。大胆な色づかいと構図で動き・奥行きがあり、ともすると視線が迷い込んでしまいそうなのに、着物としての均衡を保っています。不思議な異世界の雰囲気が立ち上って、好き嫌いのある私には珍しく、とびきり気に入ってしまいました。
こうした一級の品を身に付けるとは、なんてぜいたくなことでしょう......。
さて、結婚式当日は、朝から美容室で着付けし、髪やメイクもしっかり仕上げてもらいました。二十歳の成人式に出席しなかったので、この機会に日吉の写真館で記念撮影。
お祝いの席の振袖は、新婦のご家族の方にとても喜ばれました。「この子は小宇宙をまとっている」とは誰も思わなかったでしょうが、うららかな春の午後に千種の花を集めた振袖は、かなり目立っていたようです。
素敵な振袖、ありがとうございました |