なくて七癖
「なくて七癖」、自分は気づいていないような思わぬ癖は誰にもあるものだと思います。
私の場合、最近少しずつ話せるようになった娘によって、思いもよらぬ自分の癖(とくに口癖)を思い知らされている日々、「子は親を映す鏡」とよく耳にしますが、まさにそのとおりと実感しているところです。
娘さくらはまだおしゃべりを始めたばかり、こちらが言ったことに対してオウムのように繰り返して言うだけなのですが、どういうシチュエーションで使うかは、彼女なりになんとなくわきまえているようです。
私がよく言うセリフは「よかったねえ」のようで、最近は何か困ったことが解決したりいいことがあったときなど、先手を打って「よかったねえ」とさくらに言われます。何度も言われると、「私、そんなによく言ってるかな?」とドキッとします。
幼い娘にニコニコ笑顔で「よかったねえ」と言われても気分は複雑ですが、一生懸命私をほめてくれているのだからありがたく受け止めておくとして。
そのほかよく口に出るのは「いっちょにお布団」(一緒にお布団で寝よう) 「みんなでパクパク」(みんなでご飯を食べよう) 「おうちに帰ろう」「お手手つないでね」など。私自身はまったく意識していないのですが、たしかに頻繁に言っているのかもしれません。
そんな言葉の中でとくに印象的なのは、さくらがたとえば転んだときなどに「大丈夫?」と聞くと、「大丈夫!」と返事をすることです。
実は、私の祖父は数年前に亡くなってしまったのですが、生前病床にいたとき、見舞いに行った私が「大丈夫?」と聞くと「大丈夫!」と力を振り絞って答えた言い方にとても似ていて、最初聞いたときはびっくりしました。元気なときの祖父は非常に無口で、たまに話すときはとてもぶっきらぼうな感じでした。もちろん祖父のことは大好きでしたが、おしゃべりな私と違って物静かな祖父の口からたまに出てくる言葉は少し厳しくも思えていたのです。
しかし、胃がんをわずらい手術後は自宅で安静生活を続ける中で、祖父はどんどん子供のように素直で無邪気な表情や言葉使いになっていきました。たまにしか見舞いに行けない私が「大丈夫?しんどくない?がんばってね!」と声をかけると、「大丈夫、がんばる」と小さな声ながらもやさしく答えてくれ、それが私にとって祖父から聞いた印象的な言葉となってしまいました。
今でも「大丈夫!」「がんばる!」という祖父の声を思い出すことがあります。
そしてそんな中、さくらが「大丈夫」と非常に似た言い方をするので、祖父と重なり合って嬉しいような不思議な気分になるのです。
さくらも成長すれば、私が「大丈夫?」と聞いても、「何言ってるの?へちゃらよ!」なんて生意気な口をたたくようになるに違いありません。素直にオウム返しをしてくれる今、さくらの「大丈夫」という言葉で祖父の思い出の余韻に浸りたいと思います。
癖というわけでないのですが。
さくらがよくすることの一つに、何か飲んだり食べたりするとき、必ずといっていいほどコップやお皿を「チン」と言って乾杯を求めてくることがあります。
我が家は自他とも認める倹約一家!決して家で頻繁に酒を飲むわけではありません。たぶんさくらが自分でコップで飲めるようになったころ、私たちが面白半分に麦茶が入ったコップで「チン」と乾杯をさせたのだと思います。それ以来彼女は、同じ食卓を囲む仲間とは「チン」(それも飲み物は一口ごとに)と乾杯をするものだと思い込んでいるようです。
家庭内だと「毎回毎回、めんどうだなあ」と文句を言いつつも付き合いますが、たまに家族以外の人と食事を共にすると「あら?、チンだなんて!お父さん家でもよくお酒飲んでるのね」と大きな勘違いされます。本当に困ったものです。
子供は思っている以上に周囲をじっと観察し、良いこと悪いことに限らずいろいろと吸収しているようです。
これまでは「赤ちゃんだから」と油断して、急いでいるときは、さくらの前でもつい立ったままパンを食べたり足でドアを閉めたりなどしていました。しかし、これからは口癖に限らず、普段意識していない思わぬ癖をまねされて恥ずかしい思いをしないよう、気をつけたいと思います。