ウソみたいな!進化論の話(1)ダーウィン以前
先日、生物学者・池田清彦さんの話を聞く機会がありました。
後で知ったのですが、池田さんは「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ)にもパネリストとして出演されるなど、生物学の研究にもとづくユニークな発言をされる方として有名のようです。
私はお名前だけは伺っていましたが、あいにく著書は1冊も読んでいませんでした。
「進化論について面白い話が聞けるよ」と知り合いに誘われ、今回の講演に参加しました。
講演はたしかに興味深かったのですが、同時にかなり難解でした。
そこで、池田さんの話をできるだけわかりやすくまとめてみたいと思います。
少々長くなるので、2回に分けて掲載させていただきます。
なお、以下の内容はあくまで私なりの理解です。必ずしも正確な要約ではありません。
その点は、ご了承ください。
まず「進化=evolution」とは、どういうことでしょうか。
それは、世代を経るごとに生物の形や機能や行動が少しずつ変化することです。
例えば、Aという種が世代を経てBという種になるのが進化です。
現代の私たちにはあまり違和感がないと思いますが、
19世紀までこういう考え方はありませんでした。
生物は今ある姿のままで昔からずっと生きてきたと信じられていたのです。
では、なぜ「進化」という考えが主張されるようになったのでしょうか。
それは生物の多様性を説明するためです。
18世紀末、フランスはパリのモンマルトルで、大量の生物の骨が偶然発掘されました。
発掘した学者たちは、これらの骨が現代の生物のものとは全然違う形をしていることに関心を持ちました。こうした違い(多様性)の生まれた原因として、ノアの大洪水のような「天変地異」説を唱えた学者もいます。
当時の博物学者ラマルクは、「すべての生物は下等なものから高等なものに変わっていく」と考えました。これは「前進的進化説」と呼ばれ、初めて唱えられた進化論とされています。
生物には進化する力が内在しており、その力は時間の経過とともに働くという考えです。
つまり、生物が多様なのは、それぞれ発生した時点が異なるからだということになります。
ラマルクによると、最も高等な生物である人間は、一番最初に発生した生物の子孫だと考えられます。
ただ、ラマルクは生物について下等とか高等とか言っていますが、
実際には、このようなランクづけは一概に決められません。
例えば、カブトムシとクワガタではどちらが「高等」なのか。論争は尽きないでしょう。
また、「発生」という言葉についてですが、
当時のヨーロッパでは、「生物は自然発生する」という考えがまだ根強く支持されていました。
古代ギリシアの哲学者アリストテレスは、「ウナギは泥のなかから生まれてくる」と考え、
この考え方は16世紀までずっと否定されませんでした。
19世紀になっても、ラマルクはこの自然発生説を支持し、
新しい生物種がつねにどこかで(ひとりでに)発生し続けていると信じていました。
しかし、同じ19世紀にこの自然発生説が否定されます。
細菌学者パスツールは、有名な実験で「自然発生というものはない」ことを実証しました。
当時はまだ一般に、微生物や寄生虫は自然に(ひとりでに)発生するものと考えられていました。
そこでパスツールは、独特の形状をしたフラスコを使って微生物の発生要因を調べ、
密閉したフラスコでは微生物が発生しないことを明らかにしたのです。
この発見はラマルクにとって痛手になりました。
彼の前進的進化説は自然発生が前提となっています。
その前提が否定された以上、彼の進化説は説得力を失いました。
そのほか、ラマルクの考えとしては、高校の生物でも習う
(1)「用不用の説」
(2)「獲得形質」
があります。
(1)は、継続して使われる器官は増強され、使用されない器官は徐々に衰退していくという考えです。
(2)は、生物が一生の間に環境の影響によって受けた(形や機能や行動における)変化のことです。
今日では、ラマルクはこれらの考えの提唱者として有名です。
しかし、もともと(1)と(2)の考えは、前進的進化説を主張するための補助仮説でした。
メインの主張が否定されてしまったために、これらの仮説だけが後代に残ったわけです。
以上では、生物の多様性を説明するために「進化」が唱えられたことと、
自然発生という考えに依拠したラマルクの学説を中心にみてきました。
パスツールは「自然発生はしない」ことを明らかにしましたが、
現代の生物学では、原初の生物は無生物からできたと考えられており、
生命の起源や生物の多様性にまつわる謎は現在でもよくわかっていません。
次回は、「進化論の父」として有名なダーウィンが登場します。
また、ダーウィンの進化論に遺伝学が加わったネオダーウィニズムと、
それ以降の展開に触れ、いよいよ池田清彦さんの主張に迫ります。
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