5Sは目先の費用対効果よりも、徹底してやりきることによって組織の体質を一段上げ、そのことによるより大きな効果をねらった活動だと言えます。
前の記事で書いた「5Sによる間接的、複合的、長期的利益」について、もう少し考えてみたいと思います。
実際には、5Sに取り組むと短期的にもいろいろな効果が生まれます。特に整理整頓が進んできた段階では、職場の中から多くのムダが無くなります。それによって作業性が良くなり、仕事の効率が上がりますので、投入した工数や費用と比較してもプラスとなることもありますし、需要が旺盛な時期であれば売上が伸びて大きな利益となる場合もあります。
ところが、少しきれいにしようと思ったら相当に面倒なことになりそうな場合があります。あるいは整理整頓がほぼ完了してすっきりした職場の中で、どうしても納まりきらないファイルが1本だけ残ってしまうような場合がありますが、それに何とか対策をしたところで作業性にはまったくプラスはありません。
もし費用対効果を重視するとしたら、どちらのケースも「手を付けずそのまま放置」と選択するのが適切な判断となりいますが、5Sの場合はいずれも「やる」ほうを選択します。
なぜなら、当面の利益にはならなくても、徹底してやりきったときにもっと大きな利益につながると考えられているからです。
5Sには、もう1つの側面があります。5Sに取り組めば一定の効果が得られますが、5Sだけでもたらされる効果はそれほど大きくはありません。せいぜい数パーセントの作業性が上がり、スペースにいくぶん余裕ができ、一時的に消耗品や部品のコストが少し減り、職場がきれいになる程度です。
ところが、5Sが一定レベルに達してくると、5S以外の活動で急に大きな成果が出るようになることがあります。たとえば、5Sに本格的に取り組む前から何かの改善活動をやっていて、いくぶんマンネリ気味で目立った成果もあがっていない状態だったものが、急に大きな改善効果が出始めるといった現象です。
5Sはそれ自体での効果は大きくはありませんが、他の何かの活動と組み合わさったとき、他の活動のほうで大きな効果があがるといった特徴があるようです。
こういった現象は、そこそこにきれいにする程度だと表れることはなく、どうも5Sを徹底してやりきるか、徹底するための工夫の過程で表れてくるようです。要因はいろいろ考えられますが、乱れに気づいたらすぐその場で是正する、どうしても納まらないファイルが残れば、根本からレイアウトをやり直す、問題を先送りしたり他のせいにしたりせずに自分たちでできる工夫を重ねるといった5Sの文化と関係しているのではないかと感じます。
大きく捉えると、5Sを徹底してやりきろうとする過程で、業務の基盤が整備され、組織の体質が一段上がるためではないかと思えます。
5Sに熱心に取り組んでいる企業では、「最後は5S」といった言葉をよく聞きます。あるいは「5Sが足を引っ張る」といった表現をする人もいます。これは、他の何かの活動に取り組んでいるときに、5Sが徹底されてないことが障壁となって、予定以上に時間がかかったり、効果が十分に発揮されないことがあるということを意味しているようです。 いろいろな改善活動でも、成功するかどうかの境目のところで5Sが徹底できているかどうかが関係してしまうことを実感しているからこそ出てくる言葉かと思います。