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企業と人材 第38巻861号2005.06.20

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【OJTを成功させる!第1回~OJTのこれまでの流れと教育スタッフの取り組み課題~】

<以下掲載内容>

【1.OJTに関する今日的な課題】

「コーチングはもう終わった」
これは研修事業の同業者が昨年あたりに言っていた言葉だ。確かに、ここ数年コーチングに対する各企業の関心は高かったが、それも少し下火になってきたように感じる。せっかく部下の指導育成の領域のテーマが注目されていたのに、それが一時のブームで終わるのは残念に思えた。
しかし、研修事業者にとってのコーチングという商品の売れ行きが鈍ったとしても、企業の教育スタッフの関心は、部下の指導育成という領域から離れたわけではいないようだ。

■教育スタッフのOJTへの関心
弊社では、人事教育スタッフに焦点をあてたWebサイトを運営している。そのサイトにGooglなどの検索エンジンから訪れた人が、どういうキーワードで検索してきたかを分析しているのだが、過去数年、一番多いキーワードは「OJT」だった。この傾向はコーチングが話題になっているときも、下火になってからも一貫して変わらない。
弊社サイトでの検索キーワードのランクづけが、そのまま世間の関心を反映しているわけではない。しかし、多くの教育スタッフがOJTに関心を持ち、情報収集をしていることは確かなようだ。
教育スタッフのOJTへの関心は、私がこの業界に入った20年くらい前から高かった。ただ当時は、教育スタッフが「教育はOJT中心でやっている」と言う場合、「弊社は教育にはお金をかけない」を意味していることもあった。
その当時から比べると、実際にOJTのしくみを整備し、力を入れて取り組んでいる企業は増えていると感じる。しかし一方で、OJTは重要だがそこまで手が回らないという教育スタッフも少なくない。

■企業が抱える課題とOJTへの期待
今日、OJTに関して企業が抱える課題は多岐にわたる。実際にいくつかの企業では、OJTに関する課題として以下のようなものを意識している。

  1. 少子化に伴う新人の質の低下への対応
  2. 中途採用者の戦力化のシステムづくり
  3. 派遣、パートなど外部要員の指導システム
  4. 大量退職を目前にし世代交代と技能伝承
  5. 職務が高度化、専門化する中での指導育成
  6. 求められるビジネス・リーダーの養成
  7. 成果重視などの人事政策の中での指導育成
  8. 品質、CS、企業倫理など経営課題の定着化

職種別、階層別の切り口もあげれば、課題はこれだけに収まらないが、こうしてあげてみるとOJTへの期待が変わってきているように感じる。かつては新人の早期戦力化とか、中堅社員の底上げなどが主要な目的だったが、現在では経営テーマと密接は領域までも、OJTに期待されているようだ。
この連載では、このような背景を踏まえて、現在のOJTの課題やその解決策に焦点を当ててみたい。

【2.OJTに関する枠組みの整理】

この連載では、OJTを「主として管理監督者の責任の元に行われる職場内での人材育成活動」と少し広い意味で使っていくことにする。特定の手法やしくみと結びつかない「部下の指導育成」全般を指す概念と位置づけておきたい。
ここではまず、OJTや部下指導がどのように捉えられてきたか、どういう取り組みがなされてきたかを整理しておきたい。

■OJTの定義が確立されるまで
一般的にOJTの定義と言われるものを見ると、「上司が部下に対して」「仕事を通じて」「意図的、計画的、重点的に」「マンツーマンで」「指導育成」などのキーワードによって構成されている。この定義には、部下の育成をより確実に行っていくための方法論が意識されている。
定かではないが、この定義は1970年代から80年代にかけて確立されたのではないかと思われる。しかし、その以前にも仕事を教えるしくみはあった。
伝統的なところでは、職人の世界の指導方法がある。長い下積みに耐えながら、師匠や先輩の技を見て盗むという方法だ。教える場合も多くは語らず、一言か二言の指摘をし、また黙々と作業を繰り返すというイメージだ。これは言葉では説明し難い高度な技能を習得させるには適した方法だとも思えるが、見方によってはむやみに技術を教えないためのしくみだったのかもしれない。
工業が盛んになると、職人の技能より機械の性能が品質を決め、操業時間が生産量を決めるようになる。そのため工員を雇ったらすぐ、長時間働かせることが重要だった。作業は叱りつけて教え、できなければまた叱りつけるという方法が主流だったと思われる。
戦後の復興期には、鉱工業の再生が国家的なテーマとなる。生産性を上げるには、採用した労働者の教育が重要とされた。そこで戦勝国のアメリカにならい、より科学的で効率よく教える方法として、ジョブ・インストラクションに代表される手法が各企業に盛んに導入された。
この手法は、1工程の作業を教えるには非常に効果的だった。しかしこれだけだと、複数の作業からなり、複合的な技能を要する業務の担当者は育たない。そこで一人前の担当者を育てるのに、場当たり的でなく、指導開始時点での能力を見極めた上で順序立てて教育していくことが重視されるようになる。 こうして注目を集めるようになったのが「意図的、計画的、重点的」な指導方法で、これがOJTの一般的な定義として定着した。

■OJTの限界と発展
この時代のOJTでは、現有能力を分析し育成目標を明確にした上での計画書づくりが重視された。 手間がかかる面はあるが、製造、営業、販売など自社の主力の職種において、新入社員や中途採用者を一人前にするのに効果を発揮した。
しかし、計画書を作るにはその業務がどういう作業や技能によって構成されているかを分析する必要があり、また教えようとする相手が現在どのレベルにあるかも見極める必要がある。これが可能になるのは、比較的安定していて変化の少ない職種に限られていた。
逆に個別性や専門性の高い業務や変化が激しい業務では、計画づくりが困難となる。特に業務が複雑で複合化している中堅以上の社員の育成では、この手法はうまく機能しなかった。
こうして80年代の半ばには、それまでのOJTの限界が指摘され、新たな方法が提唱されるようになる。その代表例が吉田博氏の「問題解決型のOJT」だ。
これは、課題を投げ掛けたり新たな業務を付加したりすることで、本人が問題解決をしていく必要性を意図的に作り出し、その過程を通じて能力の開発を促そうというものだった。

■多様化した時代
90年代になるとさらに混とんとした状態となる。バブル期の大量採用のころまでは、各企業はOJTリーダー制度、エルダー制度などと呼ばれる新入社員のためのOJTのしくみを整備していた。ところが、就職氷河期を迎え新人の採用が抑制されると、これらの新人のためのOJTのしくみは重要性が薄れてくる。一方で「バブル入社」と呼ばれた社員の再教育が大きな課題となっていた。
同時期、多くの企業では目標管理制度の導入や再構築が進められていた。そして、この目標管理制度の中にOJTを位置づける企業が増えてきた。そこでの手法は「問題解決型のOJT」であり、課題となっていた中堅層の鍛え直しも期待されていた。
しかしながら、この時期の目標管理は業績評価ツールとしての色彩が強く、評価にばかり関心が集まり、OJTとして機能するまでには至らなかった。
そうした中、「学習する組織」論(Learning Organization)の影響を受けたOJDという考え方が流行する。組織が変革していくためには組織としての学習が不可欠で、そのために職場ぐるみの学習を進めていこうというものだ。
この考え方の登場により、従来型のOJTはOJDの一部に押しやられてしまう。同時にOJLやその他の類似の用語も登場し、OJTは古くさくいものとイメージされるようになっていった。
ところがこのOJDも、さほど多くの企業には浸透しなかった。概念的すぎたことや方法論が明確でなかったことも原因だと思われるが、当時は評価や賃金への関心が強く、育成までは意識が向かわなかったのではないかと感じる。
しかし、リストラや成果主義賃金の導入が一服すると、組織のモラールダウンが目立ち始める。また、新しい時代にあったビジネス・リーダーも育ってなく、その育成が急務となっていた。
ここで注目されたのが、コーチングやメンタリングという新しい言葉の響きをもった手法だった。これらは個人を尊重し、個人の成長する力を引き出すことを重視しており、その思想がモラールダウンが見られる組織への対処法としても、中堅以上の社員の育成という課題に対しても、非常にフィットしたものとして受入れられた。

【3.企業の問題状況と取り組み状況】

コーチングやメンタリングはちょっとしたブームとなり、多くの企業に導入されたが、根本的な問題解決になったという話はあまり聞かない。中には「全く何もならなかった」「お金をドブに捨てたようなもの」という厳しい評価を下す企業さえある。
しかし、期待した効果が上がらなかったのは手法そのものの問題ではない気がする。むしろ、背景となった組織内の状況を整理しておくことが必要だと思える。

■職場状況の変化がOJTに与えた影響
90年代、日本の企業は次々に改革を進めてきた。その大きな柱は組織の改革、賃金の改革、プロセスの改革だった。
具体的には、合併を含めて組織を統廃合し、ポスト数を削減しフラット化を進めた。それによりだぶついた中高年層に対しては早期退職制度も実施する。一方では、採用を抑制し、派遣、請負、パートなどによる要員の外部化も進めた。
処遇の面では年功要素を薄めるために成果主義を導入する。さらにIT化を進め仕事のスタイルも変化させてきた。
これらの結果、OJTを進める上ではいくつかの難しい状況が生まれた。例えば、各職場では新人が入ってこない時期が長く続き、指導経験がない人が増えてきた。省人化が激しかった製造現場などでは、入社後20年近くたって初めて後輩を指導するという例も多く、関わり方や話題づくりなど、指導以前のことで悩むという声も聞かれるようになった。
外部要員化は進んだが、仕事の単純化や標準化といった準備が十分できていたわけではない。そのため、年々複雑となる仕事を、意欲の面では社員よりも低い人たちに教えている状況となってしまった。外部要員は定着率が高くないため、外部要員を多く使う職場では「何度も何度も同じことを教えてもすぐに辞めていく」と無力感を口にする人が多い。
年上の部下というのも珍しくなくなり、監督者クラスでは共通の悩みになっている。以前ならベテランの部下は指導対象にする必要もなかった。しかし、仕事の内容がどんどん変化し、職場としての成果も強く要求されると、年上の部下をいかに指導するかが最大の課題と言う人も出て来た。
また人員に余裕がある職場は少なくなり、成果を個人別に厳しく問われるようになってきた。教えるための時間を割くことが苦痛で、みんなで教え合うという雰囲気もゆとりもなくなってきている。
これらはほんの一例だが、教えるための環境は以前よりはるかに悪くなっていると言えそうだ。

■組織のほころびと新たな要求
各企業はこれらの状況の中でも何とか持ちこたえていたが、90年代の終わりあたりから組織としてのほころびが目立ち始めてくる。以前では考えられなかったような品質に関するトラブル、事故、不正などが発生し、またそれによって致命的な打撃を受ける企業が現れた。
問題が顕在化してなくても、多くの企業は危機感を否定しない。日常的にも品質要求の高まりや企業行動に対する厳しさが増してきていることを肌で感じていたからだ。
さらに近年では、企業倫理や情報セキュリティーへの要求も高まってきた。これらはどれも当たり前のことではあるが、それを徹底していくのは容易なことではない。基本の基本と言われる部分をもう一度点検し、できてなければできるまで、繰り返し指導し続けることが管理監督者に求められるようになってきた。
この状況は、OJTをさらに複雑なものにしてしまったように感じる。管理者には部下指導に関して、成果を出させること、かつてより高度で創造的な能力習得を促していくこと、そして基本的なことを軽視せず徹底させていくことという3つのテーマを担わされることとなった。これらは、場面によって矛盾した指導をしそうなテーマであり、指導する側に悩ましい状況をもたらしてしまった。

■教える側の立場
OJTの問題を語るとき、教わる側、特に若年層の気質の変化が問題にされることが多い。特に上述した基本の徹底という話では、常識の欠如などと家庭教育のあり方までが問題にされてしまう。
しかしながら、変化したのは教わる側だけではない。教える側にもいろんな変化が起きている。現在の管理監督者層の「世代的な問題」については次回以降に触れるとして、ここでは仕事の状況について取り上げてみたい。
管理監督者層に対しては、教えることへの「意識の低さ」が問題とされることが多い。しかし、教育スタッフの意見を聞くと、よくやっている人とあまりやらない人に分れるようで、全ての管理者が意識が低いということでもないらしい。
一方、管理者にOJTを阻害する要因を訊ねると、「時間がない」という理由が必ずあがる。このこと自体はずっと昔から同じで、意識の低さを表す典型的な言い訳とされてきた。
しかし、最近の状況を見ていると、本当に時間がとれない人が多いように感じる。自らもプレイヤーである人が多く、職場と自分自身で厳しい業績責任を負っている。ITが文書の作成や送付を容易にしたが、その多くは管理者向けに発行され、メールや掲示板も含めると、目を通すべき情報量はかつての比ではなくなっている。加えて、会議やプロジェクトに借り出されることも多く、部下と対話する時間は益々少なくなってきている。
そういう中でも目標設定や評価の面談に時間を割き、なんとか最低限の努力をしている人は少なくないが、OJTを機能させていくためには、この物理的な時間の問題は避けては通れないように思える。

【4.教育スタッフが取り組むべき課題】

最後に、OJTに対する教育スタッフの役割についても触れておきたい。ただ、一口に教育スタッフと言っても、所属部署の位置づけや、予算規模、要員体制、会社の方針、抱えている課題などは一定でない。そのため、OJTにどこまで手を付けていくべきかも一括りにはできない。
しかしながら、教育スタッフ以外にOJTを担当する部署は考えづらく、OJTが機能するかどうかは教育スタッフにかかっている。
いずれにせよ、教育スタッフはOJTの環境づくりに何らかの役割を果たす必要があり、その主な領域を整理すると以下のあたりとなる。

  1. OJTに対する考え方の明確化
  2. OJTの重点的な対象層ごとのしくみの整備
  3. OJTで使用するツールの整備
  4. OJTの指導者の養成

この連載では、次回以降、上記の領域の中のいくつかに焦点を当てていこうと思う。ただし、新人のOJTについては文献も多いので、全社的なしくみづくりや中堅層のOJTなど、できるだけ難しいテーマを取り上げてみたいと考えている。

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