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基本精神

更新 2014.07.15(作成 2014.07.15)

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第7章 新生 30.基本精神

これからの退職金や年金はどうあるべきなのか。退職金はどのような制度に変えていくのがいいか。この議論をしっかり固めていかないと前に進めない。
これからが最も大事な山である。藤井のコーディネーターとしての腕の見せ所だ。
折しも、ITバブルで一部のセクターは業績がいいものの、資産バブルの破綻で不良債権に喘ぐ金融業界は著しくその体力を失い、破綻回避のための貸出抑制で経済活動は一層落ち込んでいった。そのため日経平均株価は15000円をはさんで下値模索が続いていた。
株式だけでなく日本のあらゆる金融商品がその信用力を大きく毀損し、評価を落としていた。
そのため金融商品からのリターンに収益を依存している年金をはじめとする多くのファンドは運営に苦しんだ。のみならずその含み損は企業会計に多くの負担を強いていた。
「新しい退職金を構築していくためには議論していかなければならない論点がいくつかあります。まず、先日平田さんから提案していただきました退職金、年金の歴史、沿革について確認いたしましたので、それを踏まえて退職金の意味について確認していきたいと思います。これを押さえておきませんとどうあるべきかとか、どうしたらいいかの議論ができませんので……」
問題解決のステップなのだろう、藤井は手順をレクチャーした。
「退職金の意味とはどういうことですか。退職金は退職金じゃないんですか」
営業の若い男性メンバーが尋ねた。
「そうですね。たとえば何のために払うのか、とか性格とかです。賃金の後払いなら賃金の中に組み込んでもいいし、老後保障だよというなら年金だけでもいいわけです。そういう意味です。まず、そうしたところを考えておきませんとあるべき論にたどり着けません」
「なるほどわかりました」
メンバーは、プロジェクト活動のこうした手順一つひとつの意味がなかなか呑み込めないから、活動の意義を見失いがちになりやる気をなくしていく。きめ細かなフォローが大事だ。
平田も昔はそうだった。なんのためにこんな面倒くさいことをやるのだろうと訝ったことが何度もある。後になってやっと理解できたときは「なるほどねー」と感心したものだ。
「その前提として、わが社の事業の特性をもう一度確認しておきましょう。これは人事制度の見直しのときにもやりましたが、おさらいです。これを押さえることでわが社の人事制度や退職金がどうあるべきかの方向性がわかります。人事制度と退職金が違う方向に走ってもいけませんから」
「イメージするために、そこらへんも例えばでいいですからちょっと教えてください。すみません。僕ばかりつまらない質問して……」
そのメンバーは照れ笑いしながら楽しそうだった。
そんな質問にも、藤井はにこやかに面倒がらず丁寧に答えた。
「例えば、極端に言いますとわが社の事業が成果一辺倒の、とにかく売ってなんぼの人材使い捨て企業だったらどうでしょう。退職金なんて意味がありませんし、その分コミッションを厚くした方が事業にはマッチするでしょう。逆にコツコツと地道な活動を長い間積み上げてやっと成果に結び付けるような事業ですと、人材を結び付けておくような退職金がいいですよね」
「うん、うん」
うなずきながら真剣に聞き入っていた。
「ちなみに、あなたはわが社の制度はどんな制度がいいと思いますか」
「いやー、ちょっとわかりません」
「はい。そうですよね。恐らくほとんどの方が理路整然とこうだと言い切れる人はいないと思います。世間がこうだからとか、今ブームだからわが社もそうしなければみたいなことで言われることがほとんどではないでしょうか。問題があるから見直しましょう、はいいでしょう。でもどうあるべきかはわが社独自の制度としてしっかり考えないといけません。わからないまま話を進めても迷走するだけですし、一度たどり着いた結論もまた振り出しに戻ることもあります。そこで、一旦わが社の事業がどんなことをすることで収益をあげているのか。それに携わる人材は何をし、どんなことが求められるのかを追求し、それができる人材を大事にするような制度にしていきましょうという話です」
「なるほど、よくわかりました。すみません」
若い営業のメンバーは謝りながら納得したようだ。
「いえいえ。そういうことってプロジェクトでは大事ですから、いつでも言ってください。それではまずこうしたことを考えてみましょう」
藤井はそう言ってホワイトボードに整理すべき論点を書き出し、ワークシートを配った。

1. 事業の特性
(1)わが社の事業領域
ここを確認しておくことで、どんな人材が必要かが認識できる
(2)事業の将来の方向性 
   ・
   ・
   ・
  etc

ワークシートもメンバーが考えを整理しやすいように工夫してあった。
イメージ図

こんな具合に次から次へとやるべき検討作業を提案しながらプロジェクトをリードし、考え方の礎を固めていった。

こうした気が遠くなるような討議を永遠と続け新しい退職金の基本的コンセプトが導き出された。
根底に流れる基本精神は「自立」だ。これは人事制度改定のときから受け継がれる哲学だ。会社にべったりと寄りかかるのではなく、自らの考えや判断で生きていこうという考え方である。その上で新退職金のコンセプトが設定された。

<新退職金の基本コンセプト>
1.退職金は、最低限の生活保障を行う。
職業人生を全うした社員に対し、退職後の生活の安定を図るためにある程度の所得を確保する。
その目的の意味から、生活年齢に連動して支給する基本退職金を設定する。
2.支給金額に在職中の貢献度を反映させる。
成果主義を標榜する中、生活保障分とは別に貢献度に応じて支給する退職金を設定する。
貢献度の評価基準を、従来のような勤続年数のみではなく勤務内容による貢献度を評価して個別に差をつける。
3.個人の生き方、働き方を尊重する。
セカンドライフを志向する人や、多様な人材を活用する上でそのような人が不利にならないようにする。
4.勤続年数が短い人には、フルに適用しない。
3.の考えをとるものの、腰掛程度の勤務期間で高額の退職金を持ち逃げできるような制度ではなく、勤続の短い人には工夫した支給方法とする。
5.退職事由の違いによる差は、原則としてつけない。
上記のようなコンセプトにより、従来一律に行っていた「自己都合」「会社都合」「死亡」「定年」といった退職事由の違いによる支給額の違いは撤廃する。
また、「会社都合」等による場合はその都度必要に応じて設定する。

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