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人事担当者会議

更新 2014.01.07(作成 2014.01.07)

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第7章 新生 11.人事担当者会議

1997年(平成9年)3月7日(金)、平田は関係会社との人事担当者連絡会議を中国食品本社会議室で開いた。出席者は関係会社の人事課長と配下の主任で、中国食品のほうは人事部長、人事課長、それと平田だ。
日本冷機テック(株)の組織は、社長の下に専務がおり、営業部と技術部を統括している。技術部長は自動販売機修理工場の工場長を兼務している。総務部は労務や財務など経営の命脈を司ることから社長直結になっている。経理課と人事課と、組織図上の総務課があるが総務課長は人事課長が兼務になっている。
その人事課は課長のほかに男性主任が1人と女性スタッフ2人の構成になっている。
一方の中国ベンディングオペレーション(株)もほぼ同じような組織形態をしている。違うのは工場や技術系の組織がなく、典型的販売会社であることだ。
この2社とも総務部が社長直結であり取締役が担当しているのは、組合との交渉窓口であるからだ。だが、今日の会議は連絡会議ということで出席者案内には人事課長、主任とした。
「俺は何を話せばいいかのう」
丸山は自分の役割を平田に確認した。
「はい。先日の役職会議でお話していただいたように、人事にもビッグバンが来て時代が大きく変わったことと、本社の人事制度とグループの制度は一体で動かなければならないことを話していただけば助かります」
「うん、わかった」
平田は席に戻り、丸山に話してもらいたい2、3の項目を箇条書きにメモして丸山に渡した。

丸山は、人事制度の役員会プレゼンテーションや役職者会議でも話したことであり、会議の冒頭あいさつを効果的にやってくれた。
更に、この会議が平田の思いつきやスタンドプレーではなく、中国食品としての取り組みであることを付け加えてくれた。この一言は会議をリードしていく上では大きな援護である。
部長としての役割を果たしお膳立てが終わると、「後はお前たちで十分話してくれ」と出て行った。
平田はありがたかった。そのほうがやりやすい。
丸山が出ていくと部屋の空気が少し弛んだ。皆の顔から緊張がほぐれ、ほっとした気持ちが浮んでいる。
平田は、丸山のいなくなったロの字型のテーブルのホワイトボード側に座り直した。ロの字の入り口側一辺に日本冷機テック(株)のメンバーが占拠し、後から来た中国ベンディングオペレーション(株)のメンバーが対面の席に座っている。
平田が座ると同時に早速、最大の関心事である役員人事について質問が飛んだ。
「社長は代わるんかね」
まるで雑談の雰囲気だ。
「私にはわかりませんが、どうもそんな流れのようですね」
「そうしたらうちの社長も代わるんやろか」
「さぁ、それはわかりません」
「ヒーさんは人事やけわかるやろ」
「わかりませんよ。役員人事はトップマターですから。特に今回はどっちのトップが主導権を持ってやるのかわかりません。マル水の意向も大いに反映されるでしょうし」
「社長が代わったら、またいらん仕事が増えて大変やわ」
「そうですね。あいさつや届出やら。まあ、準備だけはしておいたほうがいいかもしれませんね」
この一言で会話が途切れた。
皆の顔に面倒臭そうな“やれやれ”感が滲んでいる。
手続きや事務的対処もあるが、それ以上に新社長との人間関係の再構築が面倒である。従業員120ー130人の会社では社長と課長の距離は近い。社長室は一応あるものの、ドア一枚隔てただけだ。取締役や役付役員も大抵は部長兼務で、階層もこの部長が間にいるだけだから用事も直接降ってくることが多い。
そんな社長との新しい距離感を図り直さなければならない。今までどおりでいいのか、少しは形式ばったかしこまりが要るのか。その人間関係の仕切り直しが煩わしかった。下手をすれば自分の役職も変わるかもしれない。
関係会社の宿命を思い知る冷めた空気が漂ったが、そんな事はどこにでもあることだ。直接の上司や1つ2つ上の階層が代わることもある。そのたびに煩わしいものだ。
平田にはそんなことで立ち止まっているわけにはいかない。その空気を突き破って本題を進めなくてはならない。
平田は皆にわかるようにわざと大きく息を吸い込んで、
「それじゃ、会議を進めたいと思います」と宣言した。
「先ほども部長のあいさつにありましたように、退職金を改定しなければならなくなりました。退職金は年金と一体ですから、関係会社の制度もわが社と足並みをそろえていただく必用があります」
皆の顔に面倒臭さが漂っている。
「さらに、退職金年金を変えようとしたら、人事制度も見直さなければならないんです」
「人事制度も変えるわけ」
「はい。ちょっと大変ですけどここは避けて通れません」
「この前転籍の時に作ったばかりじゃないか。それなのにまた見直すようなことになったら社員に説明ができんよ」
「はい。それはあるかもしれません。ですからそこは皆さんのほうでしっかり説明していただきたいです」
「いいのう。いやなことは全部こっちに押し付けとけばいいから」
「いや。そんなつもりはありませんが、しかしこれは役割が違うのですから仕方がありません。私には私の辛い部分もあるんですから」
平田はチョット茶化すように笑いを振りまいて衝突し合うのを避けた。

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