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セクショナリズム

更新 2012.03.23(作成 2012.03.23)

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第6章 正気堂々 40. セクショナリズム

榊下ら電算の考え方はこうだ。他部署がこういうのが欲しいというだけの要請で自分たちが勝手に開発したら、後々のトラブルの元になるし電算が自己増殖してしまう。もし、自分たちでやろうとしたらデータの入手から入力、加工、アウトプット、それら一連の使い道や思想まで全てを自分たちで完結してしまうか、他部署に押し付けなければならない。もしそれをするなら電算は会社の経営中枢そのものになってしまうし、そんなことが電算に出来るわけがない。榊下ら電算室の者にはそんな意識が根強くあった。
かといってその反面、他部署の要請は往々にして答えだけを求めそのプロセスは誰も関知しようとしない。何のために、誰が、どこで、どんなデータを入手し、誰が入力し、どんな狙いや考えのもとにどんな加工をし、どんなフォーマットでアウトプットし、結果やプロセスはどんな意味がありどう使うのか。依頼者はその一連の思想を持つべきだが安気すぎる。
特に営業は出てきた資料をもとにいかに商談を進めるか、その先のことばかりに意識を向ける。商談に役立つその資料は電算が作るものだと思っている。しかもその資料は電算がちょいちょいとプログラムさえ書けば指先一つで出てくるものだと思い込んでいる。自分たちが売っている日々のデータこそが命だということに気が付かない。それどころか俺はこういうデータが欲しいのになぜわかってくれない、と電算に苛立ちを覚えている。
電算は電算で、他部署のそんな意識に「冗談じゃない。俺たちはあんたたちの便利屋じゃない。人にものを頼むときはちゃんと礼儀を尽くせ。そんな仕事なんかやってやるもんか。別に俺たちはなにも困ることなんかない」と嵩に懸かった態度を振りかざす。
電算にしてみればそんな仕事が出来ようが遅れようが直接の責任がないから無責任を押し通したところで痛くも痒くもない。自分たちの立場さえ良くなればそれで良かった。そんな心理の見え隠れが、自分たちの立場を一段の高みへ押し上げようとの野心に見えなくもなく、そこが反発を招く。
そんな言動が他部署には横暴に映り、お互いの距離を深くしていた。特に営業とは相性が悪くシステム開発が遅れている。
「しかし、どんなものをどのように作ってほしいくらいの考えは示していただきませんと、後で電算が勝手にしたとかこんなもの作ってとか言われるんですよ」
すぐ目の前にいた荻野も口を挟まずにおれなかった。半身の姿勢を真正面に堀越の方に向け、絡むような言い方で電算の立場を主張した。電算の立場改善主張者の中では最も急先鋒だ。自分なりに電算への思いを強く持っているだけにそれは人一倍強かった。
「わかっちょる。だからそこをなんとかやってくれと頼んじょるんじゃ」
堀越もそれくらいは承知している。だからこそこうして頼みに来た。そして営業が電算に疎い体質にあることも、電算との人間関係が上手くいっていないことも、営業の電算システムや業務プロセスを見てそれくらいは見抜いている。しかし、会社の収益の源泉である営業の仕組みがこれではいかんのだ。
「そうでないと会社がうまくいかんぞ。君たちはいつも最低のレベルに合わせた仕事しかしないのか。わかっちょる者が引っ張っていかにゃいい会社にならんだろう。自分たちの立場や意地ばかりに拘って会社がどうなってもいいのか」
堀越は前々からこの問題の根が深いことを思っていた。
“今日は言うことを言って聞かせておこう。そうしないといつまでも確執が燻り続けるだろう。恩讐の果てには何も残らない。” と咄嗟に判断した。
さらに、自分の立場についても、
“自分は営業本部長である前に常務取締役だ。営業だけに拘っていてもいかん。会社全体の運営に責任がある。電算の連中にも言っておくことはある。今日はいい機会だ。この際言うべきことは言っておこう” と考えた。
「君たちの気持ちはわかる。そりゃ歯ぎしりしたいこともあるだろうよ。それが世の中なんだよ。考えようによってはだから面白いし、やりがいもある。そりゃこのパソコンのように全くミスもなくスムースに100%動いてみろ、経営者も管理者もリーダーもいらんさ。このパソコンの箱の中の世界さ。だが世の中にはいろんな人間がいる。この電算の中にも優秀な人間ばかりではなかろう。君は全員に満足しているか」そう言って堀越は荻野を見据えた。直接榊下に言うのは避けた。榊下は最後の砦だ。それに種々の状況から現実的に電算室のオピニンオンリーダーが荻野であることは明白だった。
荻野も意地っ張りだ。自分の考えを主張したばかりだったから、つい勢いで「はい」と言ってしまった。それは注目している部下たちに「俺は身体を張ってお前たちを守っているよ」という兄貴ふうポーズでもあった。このポーズが若いSEたちには頼もしく映る。
「嘘を言いなさんな。それじゃもし君が課長だったら全員にA評価をつけるのか。それほど優秀な者ばかりなら君はいらないよ」
しかし、堀越はそのことをそれ以上嗜めなかった。
「そうじゃないだろう。君たちが言っていることは、自分の仕事に責任を持て、自分のシステムとして主体的に関われ、と言いたいのだろう。今の営業のシステムだとそのとおりだろうな」
堀越は声のトーンを落とした。人に言い聞かせるときは、そのほうが効果が上がる。
「じゃがな、さっきも言ったように人間にはいろいろある。君たちは電算のプロでプログラムさえ作っとけばいいが、俺たちは営業のプロなんだよ。売ることには誰にも負けんさ。日々いかに売るかしか考えとらん。電算の勉強もしてシステムも効率よくしなければいかんだろう。しかし、俺たちにしてみると電算は目的じゃない。売るための道具だ。それを支えるのが君たちその道のプロスタッフなんだよ。そこのところをよくわきまえてほしい。全部署が自分の立場や意地ばかりに拘泥したら会社はバラバラになるぞ。それをセクショナリズムというんだよ。もう少し大きく目を見開いてくれ」
「私たちが言っていることはセクショナリズムじゃないでしょう。私たちは会社の業務の進め方として、口先一つであれを出せこれを出せというやり方がいけないと言っております。セクショナリズムというのは自分たちのセクションの権利や損得だけを考えて他部署のことには全く考慮しないことをいうのだと思います」
荻野はセクショナリズムという言葉が神経に障り、少しムッとしたように反論した。
「思いあがるんじゃない。みんなそれぞれの役目に全身全霊を傾けて仕事している。他部署のご機嫌をとりながら仕事ができるとでも思っているのか。それじゃ今電算にものを頼むときはどうすればいい。俺たちは物乞いじゃないぞ。まず話をしないことには何がどうなっているのかわかりゃせんだろう。詳しいことはそれからだろう。もし君たちの言う手続きがそれほど大事ならそれを会社のルールとして提案しなさい。内規として認知してもらったらいい。稟議手続きと同じだ。そんな努力もしないで自分の権利ばかり主張してはいかん。君たちは電算という武器を持っているから臍を曲げられたら適わんと、みんな腫れ物にでも触るような気持ちなんだよ。皆を縮こませるそんな風土は良くない。本来スムースに話ができるところに躊躇を誘っているのがわからんのか。それを傘に下手に出る奴の仕事だけしかしないのは卑怯じゃないか。そんな人間関係だけで仕事をするのをセクショナリズムと言うんだよ。もしそれが目に余るようなら配置換えするしかないぞ」

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