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 ホーム > 正気堂々 > 目次INDEX > No.6-28

転換期

更新 2011.11.25(作成 2011.11.25)

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第6章 正気堂々 28. 転換期

丸山が平田の人事改革の考えを容認してくれたことで、平田は意を強くすることができた。
前年度に発足したプロジェクトもなんとか軌道に乗ってきた。
平田が選んだ人事部外のプロジェクトメンバーは、総勢6名だ。
地区営業部総務課長1名、営業所営業員1名、工場係長1名、本社総務部女性1名、本社企画本部専門役1名、それに組合の副委員長1名を加えた6名だ。そこに平田本人と人事課長が加わった。位置付けは人事部長の諮問機関である。
プロジェクトの位置付けと役割を確認したあと、本来のテーマへと進んでいった。
藤井のプロジェクトへの手ほどきはこうだった。
「まず、人事部の役割から確認しましょう。ここがブレますとプロジェクトの進む方向が全く違ってきます。人事部がどうあるべきか、それをしっかりとイメージすることは大事なことです。その上で、人事部全体をリエンジニアリングする。これは人事部長の構想そのものになるでしょう。人事部のありようを構想できるって、すばらしいことです」
藤井は、平田の思いを鑑み少し風呂敷を広げた導入を試みた。
藤井もクールに見えて案外と熱血漢だ。こんなときには熱く語る。
「今やっている仕事を全て洗い出します。そしてそれは何のためにやっているのかを徹底的に突き止めていきます……」
それは時間は掛かったがさほど難しい作業ではなかった。
3週間の宿題でプロジェクト単独でケリがついた。
「人事部は、人材をいかに大きく育て活用するかいわゆる人材部である」
これがプロジェクトの出した結論だった。

『人事部の役割』

(1)ヤル気の醸成……事業に勝つために公正な処遇でヤル気を醸成する。
(2)人材排出機能……各事業部門が競争で成功するために優秀な人材を獲得、育成、輩出する。
(3)コストコントロール……無制限にコストはかけられないが、削減するだけではいい人材が定着しない。大事なことはコントロールできる仕組みを持つことだ。

この結論を得て、平田は我が意を得たりとばかり膝を打った。この結論は理念めいてはいるが、自分が描いていた人事のあり方と個別制度のイメージをすべて包含していたからである。人事部を変えると意気込みだけが先走りしていたものが、一気に具体性を帯びてクロッキーのようにデッサンされた気がした。はるか彼方ではあるがかすかな展望が見えてきた。
この作業を確認した藤井は、制度構築の大まかな手順を説明した。それには<第1フェーズ、基本構想づくり>、<第2フェーズ、基本フレームの設計>、<第3フェーズ、各制度の詳細設計>、<第4フェーズ、移行・プロモーション>までのステップと大まかな作業手順が示されていた。およそ2年間のスケジューリングは、メンバーに気重い負担を強いたようだ。
それを察した平田は、「もう少し短くならないか」と工夫を求めた。
藤井は、「プロジェクトの皆さんに頑張ってもらうのは、考え方の構築とアウトプットの確認が主で、後半のほうは事務局の力仕事的な部分が多くなりますから、丸々2年間拘束するようなことはありません」と雰囲気を引き戻すために必死に説明した。
「わかりました。それでは皆さんよろしくお願いします」
平田は、ムードを殊更明るくするように少し砕けた言い方で頭を下げた。

第1のステップとして藤井は、環境分析をプロジェクトに課してきた。
これにより、なぜ見直さなければならないのかということと、制度の進むべき方向を確認するためである。
世界や日本の政治動向、経済状況、社会環境の動向、労働市場の状況、会社を取り巻く状況、競合の動向、社内の状況、etc。
平田は、これらのテーマについて1人が複数のテーマにまたがって分析するように進めた。
 テーマへの関わりについて
情報源は、日経新聞1年分、各種ジャーナル誌、最近脚光を浴びているビジネス誌、政府発行の経済白書、などなどである。
社内の状況は平田が担当することにした。
この作業には少し時間がかかり、調べるだけでおよそ1カ月の時を要した。それを分析、要約し、これから先10年の見通しとしてまとめるのに更に1カ月を要した。

こうしたプロジェクトの作業を見守りながら、丸山は藤井との懇談を平田に設定させた。今回のプロジェクトの方向の確認もあるが、自分自身の考えや役割を腹を割って話しておきたかった。出来れば誰にも邪魔をされたくなく、2人きりの懇談を設定させた。
「プロジェクトの進み具合はどうだ」
「はい。順調に進んでおります」
丸山はまるで部下と話すようなしゃべり方で話した。年の差もあるが、丸山の気さくさと藤井の人なつっこさが先生やクライアントといった関係を忘れさせた。
「正直に言うと俺は、平田に言われてやらにゃいかんと一旦は決心したんやが、本当にそこまで踏み込まにゃならんのかといまだに迷っている。それと本当に今なのか。今俺がかということも合わせてね。どう思うかね」
丸山は自分の覚悟を確認するために、敢えてもう一度藤井に尋ねた。

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