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デフレスパイラル

更新 2010.10.25(作成 2010.10.25)

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第5章 苦闘 61. デフレスパイラル

こうして1991年(平成3年)は暮れていったのだが、表舞台から隠れたところでとんでもないドラマが展開していた。株式バブル崩壊の影響は、中国食品社内にも大きな傷跡を残していたのだ。
その前年の1990年、行き過ぎた投資ブーム、とりわけ株価が不動産融資の総量規制を先取りするかのように崩壊し始め、89年年末に38,915をつけた株価は2万円近くまで下落した。91年に入り湾岸戦争の特需見込みか、一旦26,000円まで回復したが二番底を確かめるように再びじりじりと下げ始めた。しかも12月にはソ連が崩壊したこともあって混迷を避けるように下げ足を早め、92年8月には14,822円まで下がってしまった。

  ■株価の推移(終値)(データ:日経平均プロフィル)
   ・89年12月  38,915円(この年の最高値)
   ・90年10月  20,221円(この年の最安値)
   ・91年05月  26,489円(この年の最高値)
   ・92年08月  14,763円(この年の最安値)

1990年3月、政府日銀は行き過ぎた不動産価格の高騰を沈静化させることを目的に不動産業への融資の総量規制(不動産業への融資の伸びを全産業への融資の伸びの範囲に抑制する)を通達し、さらに8月には公定歩合を6%に大幅に引き上げている。
この引き締めにより地価は下降に転じ、1991年(平成3年)、地価公示価格は東京圏マイナス1.0%、東京都区部マイナス2.9%と下落した。1992年(平成4年)はさらに下降の勢いを強め不動産バブルは破裂、過剰流動性相場が終焉し真の資産デフレがここから始まった。
しかし、国内の株式、不動産バブルは崩壊したが日本の技術力を背景とした輸出は依然強く企業業績は好調を続け、金利も比較的高かったこともあって円は依然高騰し続けた。1995年4月には一瞬ではあるが1ドル79.75円の最高値を記録している。
その後の政府の金融政策のミスリードは、バブル崩壊と円高により失われた10年、近頃は20年といわれるデフレスパイラルへと日本経済を陥れた。

2010年8月の現在も円高が進んでいるが、当時とずいぶん様子が違うように思える。当時の貿易収支は10兆円から15兆円、経常収支は15兆円から25兆円ほどあった。今、日本経済はそれほど元気だろうか。リーマンショックの底は打ったとはいえ貿易収支は当時の3分の1、経常収支だって半分程度ではないか。円高で輸出は鈍り、生産拠点は海外に流出し失業者が溢れている。
それなのになぜこれほどの円高が進むのか。1つは当時と同じ政府の経済対策、とりわけ為替相場に対する対応の拙さだろう。なにしろ市場に対する感応が鈍い。デフレが止まらない日本は、相対的に円の価値を押し上げる。もう1つは日本も悪いがアメリカや欧州の経済事情が殊更悪いからなのかもしれない。私たちが伺い知れないところでサブプライムやリーマンショック、ギリシャ問題は思ったより深手なのかもしれない。経済ニュースや解説などを聞いていても更にその奥に何かが潜んでいそうな疑心暗鬼が擡(もた)げて仕方がない。
今、日本を買う材料はない。超高齢化社会が到来し、学力が落ちた若年者の労働力クオリティは低く失業は増え、国の債務は900兆円にもなるという。外国人を採用する企業や社内公用語を英語にする企業も出始め、企業の生産拠点の海外移転も加速している。それだけの雇用機会が失われているのだ。
日本たばこ産業(JT)はスイスに世界本社(JTI)を持ち、09年3月期売り上げ高は1兆2000億と日本を凌ぎ、17人の役員中日本人は2人だけだそうな。
また、野村ホールディングスのシステム開発拠点はインドムンバイにあり、グローバル型社員制度なるものも導入され大学新卒者で年俸560万円だとか。日経新聞にはグローバル企業の生産拠点の海外移転が毎日のように報じられている。
2010年9月6日、同新聞の1面「混迷ニッポン」によると、スズキは静岡の部品工場建設を諦めインドに完成車工場を造るとか。パナソニックもプラズマパネルの生産を中国に移転するという記事を紹介し、今や日本の企業は世界で最も厳しいハンディ戦を強いられていると断じている。
円高であり、高い法人税率であり、雇用形態への規制、二酸化炭素25%削減……などである。卑近なところではヤマハ発動機も聖域なき海外移転の検討に着手したとか。
このままいくとギリシャより悪い結果を招きそうである。国民の預貯金が国債を買い続けるから大丈夫と高を括っているが、果たしてそんな危ない国債をいつまで買い続けるだろうか。私たちもそろそろそのときへの備えを考えておく必要がありはしないか。例えば、資源の豊富な豪ドルや成長著しい中国元などへの逃避だ。しかし、中国も政治不安やバブル形成が懸念されているとするならば、インド、ブラジルなどの他のBRICsか。
国民がそんなことに気付いたとき、一気に円安が起き日本発ギリシャ問題に発展するかもしれない。そんなときは何か切っ掛けがあるはずだ。
このままでは日本は沈没する。民主党代表戦は終わったが、外交音痴の日本政府に対応力がないことを市場も諸外国の政府も見透かしている。

このようなファンダメンタルズの劇的変化は、素人投資家に痛烈なダメージを与えずにはおかない。自分の小遣いの範囲でチマチマとやっている分には被害も限定的だろうが、なにか大事な資金や資産までつぎ込んでいた場合は悲惨な事態を招く。
多くの投資家が、その後何年もの間株券をタンスに寝かせることになってしまった。
社内に妙なうわさが流れ出したのはそのころである。

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