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議長平田

更新 2016.04.13 (作成 2006.01.06)

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第2章 雌伏のとき 9.議長平田

「皆さんいかがでしょうか。今、平田さんから要望がありましたように発言権を持たせてほしいということですが、よろしいでしょうか」馬場が賛同を取る。
誰もやりたい者はいないし、「発言権を持った議長」の意味を深く理解しようとしていないからすぐ拍手が沸き起こった。
こうして前代未聞の発言権を持った中央委員会議長が誕生したのである。
議長が発言権を持つということがどんなに大変なことか、そのときはまだ誰も気付いてはいなかったのである。
発言権を持つ議長になった平田は、議長という立場を大いに利用し現執行部の考えの甘さを徹底的に追求し、まさに中央委員会を壟断(ろうだん)した。
問題が紛糾したときなど、通常は議長が「この問題は後日もう一度研究して……」とか、「執行部の預かりに……」などとその案件の議事を打ち切り、次の議案へと進行を図るのが普通であるが議長自ら紛糾させるのであるから終わろうはずがない。
もちろん紛糾させることが目的ではない。真剣に取り組んでいるだけなのである。要は物事への取り組みが真面目なのである。
そんなことから、否が応にも平田は目立つ存在だったし、執行部との議論の応酬を通じて平田自身の考え方や会社経営、組合運動に対する思いが他のメンバーにも伝播していった
どちらかと言うと、それまでは執行部に対し「どうせ言っても聞いてもらえない」「下部の意見や要望を言っても執行部の考え方を押し付けられるだけ」「組合運動なんてどうせそんなもの」と諦めムードの中央委員会が、平田の何が何でも正しいことは最後まで主張し続ける熱意に、徐々にムードが変わっていった。
「やはり言うべきことは言わなければいけないのだ」と気付き始めた。
今までは、執行部が答弁するとそれを受けて議長が質問者に対し、
「○○さん、そういうことですのでいいですね」などと被せてくるので次の発言に二の足を踏んでいた。
しかし、今度の議長は逆である。どんどん言わせてくれる。
「今の執行部の意見に対してどう思われますか。何か他に意見はありませんか」
各委員も後押しができたように、少しずつではあるが発言にも自信が満ち始めてきた。

そんな状況の中で発言権を持った議長平田は、リアリズムの視線に立脚して独自の是々非々論を展開させたのである。
執行部の判で押したような月並みな建前論では収まりがつかなくなっていった。
中央委員会はいつも紛糾し、長引くことが多くなった。遠くから来ている委員の中には早く終わってほしいといった顔をしている者もいるが、議論が白熱し周りが真剣であるからそんなことは言い出せない。
演台の中央に並ぶ執行委員長はいつも苦虫を噛みつぶしたようなしかめ面をしていなければならなかった。
その両脇に並んでいる他の執行委員たちは、俺たちは関係ないというふうな澄ました顔をして議論にも参加しないし隣同士で小声で雑談している者もいる。内容が聞こえたら議長の立場で聞き逃さず注意したであろうが、打ち合わせかもしれないのでとがめなかった。しかしそのことがかえって委員の印象を悪くし、揉めなくていいことまで揉めることがあった。
現執行部も一枚岩ではない。寄せ集め執行部の実情を垣間見る思いである。
平田にしてみれば「お前たちも執行部を支える一員だろう」と言いたかったが、彼らを怒ってみてもどうなるものでもなかった。そもそも現体制そのものがゆるみきっている。

2月下旬のある中央委員会でのことである。
「夏期半年間の三六協定についてですが、執行部としましては昨年同様1カ月当たり40時間、休日出勤2日の大枠を設定し、その範囲内で各支部の実態に合わせて協定していただきたいと考えます」執行部案を馬場書記長が提案説明する。
中央委員はそれぞれのブロックの意見を吸い上げてきているので、
「うちのブロックでは長すぎると言っています」
「うちは市場が広いのでこれでは足りません」
各委員が各々下部意見を言う。
それを受けて委員長や書記長が、
「あまり長くして体を壊してもいけません。我々労働者は体が資本です。かと言ってあまり短かくして業務に支障をきたしてもいけませんので、やはり40時間くらいがいいのではないかと思います」などとおざなりな答弁でまとめる。
今まではそれ以上突っ込む者がいなかった。
メンバーも、どうせ意見は通らないと諦めているから早く終わってほしいと思っているだけである。
しかし、今度の議長平田はそれでは収めなかった。議長といえども意見が言えるのである。

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