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三六協定

更新 2016.04.13 (作成 2006.01.16)

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第2章 雌伏のとき 10.三六協定

「ちょっと待ってくれ。本当にそんなことでいいのですか。基本的には各支部で協定するものですが、大枠設定とはいえそもそも三六協定というものは、まず会社が事業計画、経営施策、要員構成、業務の繁忙、時間外労働の実態などを勘案し、そうした情報と共にこれくらいの枠が欲しいと言ってくるのが本筋でしょう。
組合はそれに対して、どれくらいが妥当かを検討して大枠を設定するものでしょう。その上で各支部の実態を考慮して支部ごとに協定するのが筋道だと思います。
執行部はまず、そうした状況を教えてくれなきゃ判断しようがないじゃないですか。会社は何と言っているのですか」
「いや、そうなのですがそれでは組合としての対応が遅れるので早めに方針だけ決定させてもらおうと思っております」苦しい答弁である。
「それなら、会社に早く状況を出せと働きかけるのが本来の姿でしょう」
「4月からの実施に間に合いませんので、今回はこの案でいかがでしょうか」
「いくら大枠設定だといっても、事業計画や政策、要員計画がわからないで、検討するのは難しいでしょう。そんな材料も提供しないで結論だけ出せなんて、委員の皆さんに失礼ですよ」
「それでは三六協定は結ばないのですか」
「そうは言ってない。検討のベースとなる材料が欲しいと言っているだけです」
みぞおち辺りから腹の中に手を突っ込み、腹腸を抉(えぐ)り取るような平田の鋭い本質論議が続いた。
平田自身は決して先鋭的な危険な思想家でもなく、ごく普通の常識人である。
教育者の家庭に生まれ、育ちはいい方である。どんなに苦しいときでも「何とかなるやろ」と考える楽観論者でもあるが、仕事に関してはきわめてまじめな性格である。小さいころから家庭内で家事などの役割分担をさせられてきたせいか、責任感はしっかり植えつけられていた。
本社に勤務する平田は会社の計画や実情をよく把握していた。とりわけ平田は、暇を見ては会社の中をウロウロしていたからほとんどの情報を知っていた。
組合の執行部も当然知っているはずである。特に会社とのパイプ役である書記長は、人事部の組合担当窓口(大体は労務担当課長か部長)に行って情報をもらってくるのである。
もちろん秘密の情報もあれば、正式な資料ということもある。

組合が交渉の場で正式に使える材料(資料)は、組合が独自で調査入手したものか、あるいは会社から正式に提出された資料か、各種調査機関や団体が発表する一般的公開資料に限るのである。
そうでなかったら、会社は知らないと突っぱねることもできるし、ちぐはぐな資料では話が噛み合わないからである。
お互いが勝手な資料を作って、良い悪いを議論しても始まらない。
同じ土俵の上で話し合うことが大事である。
重要案件は、三役あたりに事前に考えておいてもらわなければならないこともある。事の重要性の程度によっては組合の機関決定の手続きが違ってくるのである。
会社の労務担当窓口がよく見落としがちなのがここである。
組合は、最重要案件は大会に付議しなければ動けないこともある。
あるいは中央委員会にかけ、下部討議を経て再度中央委員会で正式決定するということもある。
「まだ正式に決まっていないが」とか「これからどうなるかわからんが」などと前置きしながら、「三役だけの腹に留めておいてほしいのだが、実は今会社はこんなことを計画している。組合としての対応をあらかじめ検討しておいてほしいので耳に入れておこうと思う」、といった対応もたまにはしていかなければ執行部の顔をつぶすことにもなりかねない。
時には会社のスケジュールに支障をきたすことにもなりかねない。
ここは労務担当者と組合との信頼関係である。
信頼関係がなければこういった対応は意味がないばかりか、かえって危険である。
しかし、組合も人の子である。相手を尊重したこうしたきめ細かな対応をしていくことが、信頼関係を築くことにつながっていく。

組合執行部は、当然知っていながら資料を出さなかったか、たかが三六協定にそこまでしなくても通るだろう、と中央委員会を舐めてかかったかである。
「どっちにしても、この案ではダメです。実態を見てください。私の知る限りでは、会社は業績が振るわないからさまざまなプロモーションやキャンペーンを昨年度の倍近く計画しているようです。業績が悪いから要員は補充なしで、欠員の事業所がほとんどです。各支部の実態もサービス残業が慢性化しています。それを昨年と同じ時間設定ではますます実態とかけ離れていくではないですか」
「要員が少ないから、協定時間を増やせば一人の負荷が増えます。」
「もう既に負荷は掛かっています。それを無理してこなそうとするから事故につながったりするのです。今の会社の状況からして、組合が『残業は40時間しか協力しません』なんて言えますか」
「いや、だから40時間であとは何とか各自が工夫して生産性を上げるしかないのです。このままでは残業代も増えてますます業績を圧迫することになります」
「当たり前です。仕事をするのですから残業代がかさむのは当たり前です。そんなおぞましい根性で、人が本気で働くと思いますか。やるべきことはやる。出すものは出す。そうした姿勢を打ち出さなかったら会社も本気で時短に取り組みませんよ。少なくとも今期は50時間に増やし、まずは会社の業績を安定させるべきです。そうした姿勢が必要です」

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